WiMAX+無線LANでユビキタス社会実現の一翼を担う──YOZANInterview(2/2 ページ)

» 2006年07月14日 23時59分 公開
[園部修,ITmedia]
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WiMAXを採用した理由は“オープンスタンダード”だから

 もっとも、同社はWiMAXが衰退するとは考えておらず、高い可能性を見いだしている。だからこそ基幹網に採用しているわけだ。

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 「WiMAXを採用したのはそれがオープンスタンダードだからです。多数の参加企業が、WiMAXフォーラムを通じて情報を共有しており、チップや機器の開発をしています。またIntelという強力な推進母体があるのもポイントです。推進母体がしっかりしていない場合、その技術はほかの技術に埋もれてしまう可能性もありますが、Intel自身がWiMAXとWi-Fiを併用できるようなチップを開発する意向も表明しており、ワールドワイドでスタンダードになりうる技術だと見ています」(丸岡氏)

 ITの歴史を振り返ってみても、最後まで残っている技術は、その多くがオープンで、ワールドワイドのスタンダードになったものだ。それは日本においても例外ではない。

 「我々自身が技術を開発しており、それが世界でオンリーワンのものであればそれを推進するというのも1つのやり方です。しかし、我々は独自の技術は持っておらず、やるのは(技術開発ではなく)ビジネスです。ですから、採用するテクノロジーはやはり普遍的なものが望ましいと思います。その点、WiMAXは長い将来にわたって可能性を与えてくれるオープンなものだと考えています」(丸岡氏)

 4.9GHzという、WiMAXフォーラムで推奨されている周波数とは異なる周波数を用いることについても、あまり大きな障害はなかったという。確かに、当初は4.9GHz帯に対応した機器を製造しているメーカーがなく、協業してくれるメーカーを探すところから始める必要があった。しかし機器メーカーも積極的で、4.9GHzに対応した機器を開発してくれた。

 さらに、ここに来ていいニュースも飛び込んできた。7月11日から開催されているWiMAXフォーラムの国際会議で、固定版WiMAXの推奨周波数として、4.9GHz帯が協議の対象になっているのだ。4.9GHz帯が推奨周波数に加われば、すでにYOZANが展開しているWiMAXも国際標準ということになる。

 「我々は実際に4.9GHz帯で商用サービスを行っているため、ノウハウが蓄積されており、品質も向上しています。世界的に見てもまだサービスを行っているところはほとんどないので、我々のサービス自体が評価されているようです」(丸岡氏)

基地局の展開は遅れ気味だが、鋭意拡大中

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 このように、同社のWiMAX事業を取り巻く環境はなかなか順調なようだ。4月17日にはソフィア総合研究所と合弁で、MVNO事業者をサポートするMVNE事業会社を設立し(4月15日の記事参照)、ネットワーク回線の提供だけでなく、サービスも含めてパートナー企業をサポートする仕組みも用意した。しかし、問題もなくはない。それはサービスを提供するエリアがまだ当初の計画ほど広がっていないことだ。

 WiMAXの基地局は、2006年7月1日現在、関東に104局と近畿に2局しか開局していない。BitStandのアクセスポイントも、関東地区の107局にとどまっている。サービス立ち上げ時には、2006年6月までに東京23区内に8000カ所のアクセスポイントを設置する計画を発表していたが(2005年12月15日の記事参照)、目標の数値にはまだ遠い。

 先にも述べたとおり、同社はPHSの基地局を7万局程度持っており、これをWiMAXの基地局や無線LANのアクセスポイントに転換していく計画を立てていた訳だが、思ったように進んでいないようだ。何が問題だったのだろうか。

 「天候や人的リソースの問題のほか、日本で最初のサービスということで、こちら側にも不慣れな点などが多々あったため、遅れています」と丸岡氏。「しかし、面的にエリアをカバーしていくという取り組み、決意に関して揺るぎはありません。時期は遅れていますが、東名阪での面的なエリア展開は現在がんばって進めています」

 WiMAX基地局は現在300局が工事中であり、BitStandアクセスポイントも1008局で工事に取りかかっている。計画より大幅に遅れているものの、着実にエリアは広げていく考えだ。2005年のサービス開始前は、とにかく早く、公約通りの時期にサービスを開始するということを第一目標に活動してきたが、今年はインフラのクオリティ(品質)の向上とクオンティティ(数)を重視してサービスを展開していく。

 「いわゆる無線LANのホットスポットは、駅や店舗など、主に屋内に設置されている訳ですが、YOZANのネットワークが完成すれば、屋外でも無線LANが簡単に利用できるようになります。そうすると、今は携帯電話などを使って、社内では無線LAN、社外ではキャリアのネットワークと使い分けている電話を、すべて無線LANでまかなうことも可能になります。すべての通話をIP化できれば、通信料金は劇的に安くできます」(丸岡氏)

将来はデジタルデバイドの解消に一役買いたい

 まずは東名阪でのエリア展開が急務となっているYOZAN。しかし、同社の構想は東名阪のカバーだけにはとどまらない。丸岡氏は、「総務省から認可を受けた東名阪エリアのカバーが現在の最重要課題です。とにかくそれを達成しないことには、何を言っても説得力はないのですが」と前置きしながら、将来の構想も話した。

 「まず、東名阪のカバーを終えたら次はルーラル(地方)への展開を進めていきたいですね。特に、日本にも約200前後あるという“デジタルデバイド(情報格差)”のある地域の格差解消のためにWiMAX+無線LANでブロードバンドを提供したい。現在も『どこカル.ネット』プロジェクトに参加し、インターネットを利用してどこでもカルテが見られる電子カルテシステムの仕組み作りなどに携わっていますが、いろいろな問題を解決するためにパートナー企業と協力して、ワイヤレスブロードバンド接続のソリューションを提供していくのが理想です」(丸岡氏)

 特に、この情報格差のある地域にブロードバンドをもたらすのはワイヤレスの技術だと同氏は力説する。過疎が進んでいるような地域には、ケーブルやADSLのようなコストの高いものを導入するのは難しいという。何か運動をして、回線を引っ張ってくるようなことをしようと思っても、今(インターネットを)使っていない人たちは、それを使っていないことの不便さや使ったことで何が変わるのかが分かりにくいため、運動の主体にはならないからだ。しかし、そこに無線を活用して低コストで簡単にブロードバンドが導入できるとなれば、利用してくれる人も出てくると見ている。ブロードバンドインフラがあることは、さまざまなことにプラスの効果があると考えている。

 「例えば東京に出て行った息子が田舎に戻っても、パソコンとブロードバンドインターネット接続環境があれば、それが成功するかどうかはまた別の問題ですが、地元の名産品をネットで販売するといったことも始められるかもしれません。また医療に関しても、何かあったときにカルテをネット経由で呼び出し、既往症をチェックしたりできれば、救急車で病院に運ばれたときなどにもより正しい処置が行えるようになります。法的な問題を解決する必要はあるものの、医療関係の企業と組んで、地方での遠隔医療などの展開も考えられるでしょう。私たちにそのお手伝いができればと思っています」(丸岡氏)

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