クアルコムジャパンは10月31日、同社が“Pre 802.20”と位置づける次世代のモバイルブロードバンド技術、「FLASH-OFDM」のデモを仙台市内で行った。実証実験自体は東北大学と宮城県、ソフトバンクテレコムが主体となって実施しているもので(2005年7月の記事参照)、伊藤忠テクノサイエンス(CTC)がシステムの構築を行っている。
FLASH-OFDMは、モバイル環境下でIPのパケットを効率的に伝送することを目標に、1998年にベル研究所で開発された通信技術だ。2000年2月にベル研究所からスピンアウトしたスタッフが米Flarion Technologiesを設立して、同社が技術開発を続けてきたが、2006年1月に米QUALCOMMがFlarion Technologiesを買収し、現在はQUALCOMM Flarion Technologiesとなっている。
FLASH-OFDMのFlashとはFast Low latency Access with Seamless Handoffの略称だ。いつでもどこでも、移動しながらでも携帯電話のように基地局間の切り替え(ハンドオーバー)がスムーズに行えるのが特徴の無線技術となっている。変調方式は、その名の通りOFDMを用いる。米QUALCOMMが中心になって現在標準化を進めているIEEE802.20と比べると使用する周波数帯域が狭いが、共通する部分も多く、QUALCOMMではFLASH-OFDMを“Pre 802.20”と位置づけている。
無線のネットワークは、IPのコアネットワークに基地局に相当する「レディオ・ルーター」を接続するだけで簡単に開設できる。基地局設備は携帯電話などで利用しているものとほぼ同じものが流用できるため、機器のコストもそれほど高くない。
周波数幅は1.25MHzから5MHzで、上りと下りを別々に使うFDD方式を採用する。利用可能な周波数は400MHzから3.5GHzと幅広く、複数の基地局を用意すれば携帯電話のネットワークのようにセル型の広域なエリアカバーが可能だ。インターネットプロトコル(IP)に準拠しているので、ほかの接続方式ともシームレスなハンドオーバーが容易に行える。
FLASH-OFDMがスムーズにハンドオーバーを行えるのには理由がある。それは、ベースバンドに2つのトランシーバーを持っているからだ。FLASH-OFDMの端末は、2つの基地局と同時に接続できるため、移動中などに1つの基地局の電波が弱くなっても、セッションが切れる前にもう一方の基地局と次のセッションをつなぐことができる。セルの周辺部などでは2つの基地局の電波を受信し、端末側がどちらの電波を使うか判断するので、上りと下りで別々の基地局を使って通信することもある。1つの電波が完全に受信できなくなる前に別の電波を受信しているので、ハンドオーバーにはほとんど時間がかからない。
通信プロトコルはモバイルIPを使用しているので、無線LANなどほかの通信方式とのハンドオーバーもシームレスに行える。またQoSが組み込まれているため、ユーザーやアプリケーションに応じたパケットの優先順位付けが可能で、無線状態が悪い状況でも特定のユーザーやアプリケーションには高いパケットレートを提供するといったこともできる。またマルチキャストやブロードキャスト機能も備え、効率よくデータの配信だけを行うことも可能だ。
またFLASH-OFDMは電波の利用効率が高いため、基地局に1ユーザーが接続した状態よりも、複数のユーザーが接続した場合の方がトータルのスループットは向上するという現象も起こるという。FLASH-OFDMは電波リソースの無駄を極力なくす仕組みが織り込まれており、電波状態がいい人と悪い人それぞれに効率よくリソースを分配するためだ。特に端末が移動中の場合にこの現象が顕著に現れる。
ちなみにFLASH-OFDMは、すでに欧州では実用化されている。独T-Mobileが独Deutsche Bahnの高速鉄道ICEで提供している公衆無線LANサービスのバックホールとして活用されているのだ。ICEは時速250キロから300キロで走行しながら車内で公衆無線LANを提供しているが、走行中でも最大2.7Mbps程度のスループットが得られるという。
FLASH-OFDMの概要を説明したクアルコムジャパン ワイヤレスブロードバンド推進室ディレクターの川端啓之氏は、欧州でT-Mobileの子会社などがFLASH-OFDMの導入を積極的に進めていることを紹介し、「もしかしたらFLASH-OFDMのユーザーはすでに(韓国で採用されているモバイルWiMAX技術)WiBroのユーザーを超えているのではないか」との見通しを示した。
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