2006年は空前の端末ラッシュ──その傾向と問題点2006年の携帯業界を振り返る(1)(4/4 ページ)

» 2006年12月28日 23時59分 公開
[聞き手:房野麻子,ITmedia]
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SIMロックフリー端末の可能性

神尾 海外メーカー端末に関連することでは、キャリアにSIMロックフリーのスタンダードモデルに対する特別料金プランを作ってほしい、というのがあります。つまり、ノキアの「E61」のスタンダード・バージョンなどはインセンティブなしで売られるじゃないですか。あれに関しては基本料が安い、というプランを用意してほしい。パケット料金も定額制をやらないんだったら、せめてパケット単価を安くしてほしい。だってインセンティブを払っていないんですから。SIMロックフリー端末向けの料金プランをそろそろ明文化してもいいんじゃないでしょうか。そうすると、海外メーカーが自らのリスクで販売するという可能性もある。海外メーカーにiモードを載せろとか、FeliCaを載せろというのは、ちょっと辛いと思うので。

ITmedia ソフトバンクでは、ショップに対してインセンティブは出しているわけですが、割賦販売をすることで早期解約ユーザーには端末代金の多くの部分を負担させるような形を取っています。あれは短期間で解約するユーザーの場合、6万円くらいのお金を払って端末を買う形になります。それでもなお、SIMを抜くとワンセグが見られないとか、そもそも全機能が利用できないというようなことがあります。SIMロックフリーは、今後どうなっていくと思われますか?

石川 先日、KDDIの小野寺社長は会見で、「インセンティブビジネスというものは、抜けたいけれど抜けられないのだ」と話していました。「キャリアとしては抜けたいし、抜けることは別に痛くも痒くもないけれど、そうすると日本の経済がダメになる」というようなことまで言っていたんです。

神尾 日本の経済とまではいかないですけれど、携帯電話の流通事業者の大半はダメになりますね。

石川 そう、そういう話をされたんです。確かにSIMロックフリーの端末が出てきて、インセンティブを積まずに売る、という可能性もあるような気はします。でも、じゃあユーザーが店頭で本当に1台6万円、月々1500円の料金プランを選ぶのか、それとも1台1〜2万円の端末を買って月々4000円くらいの料金を払うのかといったら、やっぱり端末価格が安い方を選ぶのかな、という気もするんです。インセンティブをなくそうと言うのは簡単ですが、じゃあ、それをなくしてSIMロックフリーになるかといったら、僕はちょっと難しいような気がしますね。

神尾 この議論のおかしなところは、“どっちか”論なんですよね。SIMロックあり・インセンティブありのモデルをやめて、全部SIMロックフリーにしましょう、完全に自由化するのが正しい! というような話を総務省の一部やSIMロックフリー派の大学教授の方などは言っていますけれど、なんでどっちかしかないの? と思うんですよ。並存でいいじゃないかと思うんです。ユーザーが選べばいいんです。そうすると、今の市場環境を考えると、おそらくほとんどの人はSIMロックあり・インセンティブありを選ぶはずなんですね。メーカーもどちらかというと、そちらに力を入れてくる可能性が高い。一方で、SIMロックフリーの端末、スタンダード・バージョンを出せるメーカーも出てくるだろうし、海外メーカーなんかは、それでもいいから出したい、ということで参入してくるでしょう。だから、SIMロックありもSIMロックフリーも、どちらもあっていいと思うんです。

石川 両方選べるというのが理想だと思います。いずれどちらかが淘汰されていくのかな、という気もしますし。

神尾 どっちかじゃなきゃダメっていうのが一番過激だと思うんですよ。

ITmedia (いずれはSIMロックが)はずせる、というオプションが残されているだけでもいいんですよね。

石川 みんながみんなSIMロックフリーの端末を買って、自分でメールの設定をして、インターネット接続の設定をして、というのはありえないような気がしますね。

神尾 結局、端末購入だけの話じゃないですからね。携帯の場合はサポートも必要です。SIMロックフリーになると、販売チャネルがネット直販、あったとしても大手家電量販店だけになりますから。そうすると、今までみたいな手厚いサポートも受けられない。壊れたら、送って預かり修理になっても代替機が出ない可能性もある。それでもなお、使いたい人は使えばいい。

石川 マニア向けのものにしか、ならなくなってきますよね。

神尾 それでも、ノキアのEseriesが使いたいとか、海外メーカーのこのモデルが使いたいという声はありますからね。なのに、そういう料金プランがないがゆえに、海外メーカーが入ってこられない、参入障壁だっていうんだったら、(SIMロックフリー端末向けの料金プランを)作ってもいいんじゃないかと思うんです。

ビジネスケータイの広がり

ITmedia 特にauがそうでしたが、2006年はコンシューマーとは別に、ビジネス向けのブランドを立ち上げて、積極的に取り組み始めた年だったと思います。今後も広まっていくだろうと思うのですが、キャリアの動きについてどのように分析されますか?

石川 ビジネスケータイについては、番号ポータビリティ(MNP)の影響が一番大きいのではないかと思います。個人需要が限界に来ているので、次は法人を狙っている。1人に2台、つまり全くプライベートな携帯と会社支給のものをもう1台持たせられますから。各社とも法人携帯を作って、法人向け料金プランを作って、法人向けサービスを用意していこうというのが見えているので、キャリアの戦略としてはわかりやすいという気もするし、メーカーとしてもそれに乗ってくるでしょう。だから、MNPを語る上で、法人携帯っていうのは重要な位置を占めてくると思います。

ITmedia 番号ポータビリティがトリガーになったと。

神尾 MNPがトリガーになったのは確かだとは思いますが、キャリアが法人向け端末に力を入れる一番の理由は、全体的な契約維持コストが安いこと。法人の場合、顧客獲得コストは個人と同じか、個人よりも若干多くかかるくらいなんですが、維持コストは安いんです。買って1年後に端末を買い換えることは、法人だったらまずありえないですよね、よほど大きくて新たなソリューションを導入するのでもなければ。とすると、同じ端末を使う期間が長くなりますから、キャリアはインセンティブの回収がしやすくなります。現在のMNPの状況を見ていると、法人契約のポートイン/ポートアウトは極端に少ないんですよ。動かない。特にドコモからのポートアウトは個人に比べるとかなり少ないです。動くときにはゴソッっと何百契約と動いてしまいますが、一方でそのリスクが低いというのもポイントになると思うんです。

 コンシューマーの場合、今後は非常に短期間で端末やキャリアを変える人が出てくると思うんです。コンシューマーは顧客獲得コストもそうですが、維持コストがかかるんですよ。他のキャリアに移ってしまわないように、ご機嫌取りじゃないですけれど、機種変更を積極的にしてもらったり、色んな特典を与えたりして、乗り換えないようにする必要があるのです。でも、法人は維持の面ではコストがかかりにくくて、安定的な契約になる。MNPが始まったからこそ、法人顧客の安定性があるというところが、キャリアにとって魅力として大きいのだと思います。

 石川さんがおっしゃるように、当然、新規市場としての魅力も大きいですから、そこを取りたい気持ちはあるでしょうね。その上で、キャリアとしては、MNPで流動性が高まったので、できるだけ流動しないお客さんが欲しいんだと思います。

ITmedia 企業側からすれば、セキュリティの問題も重要だと思うのですが、コンシューマー向けの端末では限界がある、という部分もあるのでしょうか。

神尾 法人は今まで持ち込み携帯でずっとやってきて、セキュリティ意識の問題もあったけれど、生産性の問題も抱えていたと思うんです。会社のPCでの株取引やヘンな掲示板サイトへのアクセスを制限したとしても、携帯でやられていたら全く意味がないわけです。「トイレトレーダー」って、しきりにトイレにこもってはケータイでトレーディングしているサラリーマンのことで、本当にいるんですよ。これは経営者にとって非常に大きな問題で、就業時間中の私用携帯の利用を抑えるためにも、携帯電話の運用をコントロールする考え方が大切になってきます。企業の経営者が、個人の携帯電話で仕事をさせることが、「会社がケータイ料金を負担しなくてすむからラッキー」くらいに考えている方がおかしいんです。

ITmedia 安定した顧客獲得のほかに、法人で何かキャリア側のメリットがあるでしょうか。

神尾 ひとまず音声契約で取っておくと、その後にデータ通信のニーズが拾えるかもしれないということでしょうね。今、ビジネスで携帯を使っているところのARPUは大半が通話、通話プラスちょっとメールくらいですから。これがビジネス用途で、例えばホワイトカラー向けの情報系サービスや基幹系のサービスを携帯から使う、というようになると、新たな収益源になります。まずは、契約数ベースの量の拡大をして、その後、可能な法人顧客から質の引き上げをするという流れ。この二段構えかな、と思っています。

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