SIMロックフリーの「E61」で、日本の法人市場に風穴を開けたい──ノキアに聞く法人戦略Interview(2/2 ページ)

» 2007年01月15日 13時43分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 さらに森本氏、ビジネス向けのスマートフォンや携帯電話は、その市場に特化した商品企画や開発が必要だと指摘する。

 「(また日本市場では)法人市場向けの携帯電話として、コンシューマー向けの製品を法人市場に転用したり、法人向けに開発された端末もコンシューマー向け端末と同じ要素や制限が入ってしまっているものが多い。これはキャリアが販売し、サポートするという事情が影響していると思います。

 ただ、このような(キャリア主導の)日本市場のモデルだと、企業ユーザーのすべてのニーズに応えきれない。PCをビジネスで使うように、(ユーザー企業が)自由な運用ができない。これ(SIMロックフリー)が日本市場のマジョリティではないのは分かっていますが、ユーザー企業側のニーズがありますので、何年かかけてこの販売モデルを切りひらいて行ければ、と考えています」(森本氏)

 法人市場のITニーズにすべて応えるには、キャリア主導だけでは難しい。だから、あえてキャリアの販売・サポート網から離れて、E61はSIMロックフリーで発売した。さらにSIMロックフリー端末そのものの需要も増してきていると、大塚氏は話す。

 「SIMロックフリーという点では、日本の企業で海外に長期滞在するビジネスパーソンは増えています。こういった方々は、現地(キャリア)と国内(キャリア)でそれぞれSIMカードを作るというのが現実的な運用になる。すると、それが1台で使えるSIMロックフリー端末のニーズは、実はかなりあるのです。日本企業が海外に進出していくなかでも、SIMロックフリー端末の需要は確実にあります」(大塚氏)

 確かに、ある大手自動車メーカーでは、ホワイトカラーの多くが入社数年後には海外の市場や生産部門の立ち上げのために国外に出て行くと聞く。日本市場は人口減少社会による転換期を迎えており、製造業のホワイトカラーを中心に海外と日本を行き来して働く人が増える傾向にあるのは間違いないだろう。

法人ユーザーの開拓をしていく

 今回投入されたE61は、海外のビジネス向けスマートフォンということで、リテラシーの高いユーザーを中心に注目されている。その中でノキアがメインターゲットとするのは、どのようなユーザーだろうか。

 「我々として、まずフォーカスしたいのは法人顧客の開拓です。プッシュEメール、それと(普及に)少し時間がかかるかもしれませんが、VoIP。このふたつのソリューションを軸にして、法人ユーザーの獲得を目指していきたい」(森本氏)

 この場合、最初に導入が見込めるのが外資系企業だ。海外の企業ではすでにノキアEシリーズ向けのソリューションが導入されているケースが多く、「Eシリーズのよさ、スマートフォンのビジネス活用のメリットが理解されている」(森本氏)からだ。まずは外資系企業の導入からスタートし、その後に潜在的なニーズはあるが、ビジネスでのスマートフォン活用に馴染みが薄い日本企業の開拓も狙うという。

 「日本企業の中でも、スマートフォンやモバイルソリューションのニーズが顕在化しているのはグローバル企業です。日本企業が、アジア、アメリカ、ヨーロッパの各国に進出するのはあたりまえになっていますから」(森本氏)

 一方で、日本市場における“今”のスマートフォンユーザーは、個人で購入したツールを仕事で活用するビジネスコンシューマーが大半だ。実際、ウィルコムのW-ZERO3も、購入者の8割が個人契約という状況である。

 「(W-ZERO3など)これまで日本で発売されたスマートフォンは、サイズや使い勝手が一般的な携帯電話とかけ離れていて、それを企業が社員に持たせるには導入障壁が高かったのではないか、と見ています。

 ノキアが(ビジネス向け)スマートフォンで重視しているのは、携帯電話の機能や使い勝手を損なわずして、ビジネスで役立つ高付加価値を与える。その点がW-ZERO3などとアプローチが違う点です」(大塚氏)

 E61をはじめノキアのスマートフォンは、あくまで「スマート“フォン(携帯電話)”であることを重要視している」(大塚氏)。そこがW-ZERO3やモトローラの「M1000」といったPDAライクなスマートフォンとの違いであり、企業導入がされやすいと考える自信に繋がる部分のようだ。

 「例えばE61は、キーパッドの真ん中にテンキーがちゃんと存在します。こういう工夫が大切で、ITマネージャーの方が(Eシリーズの)導入やサポートで苦労されないような配慮はしっかりと行っていきます」(大塚氏)

Photo E61のキーパッドは、フルキーボードとして使えるだけでなく、一般的な音声端末の文字入力方法もサポートする。中央部に音声端末と同じキーを割り当てることで実現している

ユーザー企業の側からキャリアを変えたい

 グローバルで販売するスマートフォンを、SIMロックフリーのスタンダードモデルとして販売する──。こうした販売形態では、当然ながらキャリア独自のサービスやサポート体制の恩恵は受けられず、端末販売時のインセンティブもつかない。さらにパケット通信料など料金面でも、キャリアが販売する携帯電話より不利になる。

 また日本の携帯電話ビジネスでは、コンシューマー市場向けに発売されたモデルの売れ残りを、大幅にディスカウントして法人向けに販売するケースも多々ある。

 こういった市場環境の中で、それでもなおノキアがE61の販売に踏み切ったのには、日本の法人市場を変えたいという想いがある。

 「例えば、(コンシューマー市場の)売れ残り端末でも安ければいい、と企業ユーザーが受け入れる背景には、法人市場における携帯電話が『もしもし、はいはい』の電話機能だけでしか見られていない、ということがある。(キャリアのビジネスモデルによって)高付加価値が認められる法人市場の環境が育っていない。

 我々メーカーがいくらキャリアに(スマートフォン市場の重要性について)言っても、キャリアが構築した世界があるので、なかなか受け入れてもらえない。現実問題として、キャリアを(メーカーが)動かすのは難しいのです。

 しかし、キャリアも『お客様ありき』です。ユーザー企業の潜在ニーズが顕在化して、それ(ソリューション)が欲しいという声が出てくれば、キャリアは変わっていくと思います。企業ユーザーの皆様に選択肢を持っていただくことが重要で、それによってキャリアが変わるきっかけを作りたい。小さくてもいいから、(日本の法人市場に)風穴を開けないといけないのです」(森本氏)

 周知のとおり、法人市場はこれから本格的な広がりが見込める分野だ。その中で、ノキアが期待する法人でのスマートフォン活用が本格化するか。また、日本キャリアのビジネスモデルが変わっていくのか。ノキアのチャレンジは始まったばかりである。

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