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2003/06/27 19:48:00 更新 |
家電動画とMPEG-4の未来(後編)
MPEG-2からMPEG-4、そしてH.264へ
MPEG-4は“通信向け”のもので、高ビットレートではMPEG-2よりクオリティが低いのではないか? そんな印象を持っている人も多いようだが、それは間違いだ。とくに最近はMPEG-4のパート10として採用された「H.264/AVC」が、クオリティの高さで注目を集めている
前編では、MPEG-4が使われる家電の事例を挙げ、その理由を解説した。ただ、ここで1つの疑問が生じる。
「でも、MPEG-4って、登場したのは何年も前でしょ? それにしては普及が遅くない?」
確かに、PVR(パーソナルビデオレコーダー)といえばMPEG-2が主流であった。これは、メーカー側にしてみれば、やはり慣れ親しんだフォーマットであり、技術的にも、ライセンスの方法についても、しっかりと把握しているものなのである。互換性にしても、扱われるプロファイルはほぼ決まっており、PC上でも対応しやすいということがわかっている。
これに対して、MPEG-4は、いくら圧縮率が高いといわれても、プロファイルやレベルが多すぎて複雑である。サポートしているプロファイルの関係で、同じMPEG-4対応の機器同士でさえ、互換性がとれないというケースもある。そして何となく、規格策定のいきさつから、MPEG-4は通信向けのもので、高ビットレートではMPEG-2よりクオリティが低いのではないか、と思われているようだ(これは間違いなのだが)。また、ライセンス料金に関してもMPEG-2と比較するとややこしい部分があり、敬遠されてきた部分もある。
だが、ここにきてMPEG-4のパート10として「H.264/AVC」が採用され、このクオリティの高さがさまざまな業界の注目を集めている(関連記事1、関連記事2)。これが今後のメディア技術の本命となっていきそうな気配である。
まだ実装については「重い」という意見が多いので、おそらく今年の後半から来年にかけて、本格化するだろう(ときどき、H.264がMPEG-4の対抗技術の名前であるかのような記述が見られるが、それはちょっと違う。H.264はITUが進めてきた規格だが、ITUとMPEGが協力してジョイントで進めているものなのだ)。
標準規格から標準規格を選ぶ?
では、これから世の中の動画系家電はどうなっていくのだろうか? もう、すでにおわかりだと思うが、「融合」へと向かっていくということになるだろう。携帯電話へのメッセージをPCで作成したり、TV録画したものをPCで編集して家庭内でストリーミングしたり、あるいは家のサーバを経由して仕事先のPCでTVを見る、といったことも、もうすでに可能になっている。そして、こういったことを全部シームレスに行うためには、やはりフォーマットの統一というものが求められる。
その1つのフォーマットがWindows MediaであってもReal Mediaであっても、クオリティだけを見れば何の問題もない。ただ、前述したように、特定の会社が持っている、という点がネックとなる可能性はあるだろう。また、これらのフォーマットについては、基本的に、「勝手に他のフォーマットに変更してはいけませんよ」という決まりがあるので、そうそう編集などをするわけにもいかないということもある。
となると、やはりMPEG-4が最も有力なフォーマットということになるだろう。ただ、前述のように、MPEG-4という規格は、なかなかに複雑で、奥が深い。そこで、その中でさらに標準スペックが決められていく必要がある。すでに、そういった作業に取り組んでいる団体はいくつかある。
1つはISMA(Internet Streaming Media Alliance)。これは、アップル、IBM、シスコシステムズ、サン・マイクロシステムズ、フィリップス、カセナの6社が中心となり、「IPベースのストリーミングを行う場合に使用するスペックを整理して、互換性を持たせましょう」という活動をしている団体である。現在の規格1.0では、MPEG-4を使ったストリーミングのスペックが規定されている。さらに現在、DRM(デジタル著作権管理)などについても規定されている段階である(1月の記事を参照)。
それから、DVDの規格を決めるDVDフォーラムは、次世代のDVDの規格において、MPEG-4の採用を検討しているらしい。ここではH.264が有力候補だ。MPEG-4が採用されることにより、より高画質で長時間のコンテンツが収録できるようになる。ただ、DVDというものがこれだけ普及している中で、どのように次世代のDVDが登場するのかというのは、それなりに難しいところではある。
さらに、MPEG-4のファイルフォーマットを活用した規格として、携帯端末の第三世代規格を決める3GPPの動画規格がある。こちらは、すでにNTTドコモのFOMAの「iモーション」で採用されている。Jフォンでも一部、採用されている(23日の記事を参照)。
また、ソニーの「CLIE」ではQuickTimeベースのMPEG-4コーデックが扱われており、シャープのザウルスなどでは、MPEG-4の技術が扱われている(24日の記事を参照)。
ということで、MPEG-4の範囲は膨大だが、たとえばISMA 1.0準拠(ISMA:Internet Streaming Media Alliance)、3GPP準拠、といったように、ある程度、重要な規格はしぼられてくる。そういった団体が選んだ規格に対応していけば、ある程度、メーカー側がサポートすべき範囲というものも決まってくるだろう。
さて、ここでさまざまなデバイスの役割を考えてみると……
携帯電話やPDA
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・撮影したものを動画配信 |
・PVRで録画したものを持ち歩き |
PVR、ホームサーバ
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・TV録画 |
・PCで作成したものを家庭内配信 |
・遠隔地からTV受信 |
・ホームシアター |
PC
|
・ストリーミング放送受信 |
・映像編集 |
・DVD作成 |
・ホームシアター |
といった形になる。これらをうまく組み合わせれば、さまざまな活用法が考えられる(別に全部がくっついたデバイスがあってもいい)。動画の世界も、PCを中心として、あらゆる家電とつながりそうな勢いなのである。さらには地上TV放送がデジタルの時代になると、モバイル端末向け放送も行われるようになる。ここでもMPEG-4系の技術が最有力候補だ。となると、外出先、車の中でも手軽に地上デジタル放送が楽しめるようになる。
……という具合に、すべてがシームレスになり、融合して、なんでもかんでもできるようになるのだ。こうなると、逆にセキュリティがどうなるのか、というのが心配になるところ。しかしながら、セキュリティを保ちたい場合には、配信する側が考慮してDRM技術によって、コピーできない状態にするなど、工夫を凝らせばよいのだ。
これから先も、各メーカーからさまざまな家電が登場し、動画周りの世界はますます盛り上がるだろう。そしてH.264という技術が鍵になり、家電で当たり前のようにディスク記録されるようになり、その頃はブロードバンド環境もより快適になり、ストリーミング受信も当たり前になる。そうなるといいと思うのだが……とにかく、今はH.264を採用したデバイスの登場を心待ちにしている段階である。
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[姉歯康,ITmedia]