「ベーコンやソーセージでがんになる」研究の伏線は20年前の「ホットドッグ戦争」スピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2015年11月03日 08時45分 公開
[窪田順生ITmedia]
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加工肉業界側の「反撃」に注目

 では、ワインバーガー博士らはなぜそんなことをしたのか。

 米国人なので、サンマの食べ方を知らないということもあったかもしれないが、タイミング的なことを考えると「わざと」である可能性が高い。当時は「ホットドッグ戦争」に代表されるよう、世界中の医療関係者がどうにかして「亜硝酸塩=犯人」の証拠をつかもうと心血を注いでいたが、なかなか証拠がなかった。

 なければつくればいい、と思う者がいてもおかしくはない。事実としてそういう研究不正は山ほど行われている。亜硝酸塩をクロにするには、分かりやすく「がん」を発生させることだ。そこで「サンマ」に白羽の矢がたった可能性はなかったのか。先ほども申し上げたように、野菜と魚を組み合わせると発がん性物質ができるというのは1970年代からまことしやかにささやかれていた。その仮説を塩漬けサンマで実証したのではなかったのか。

 福島第一原発事故後、メディアから「御用学者」なんて叩かれたある被曝医療の権威にインタビューをさせてもらったことがある。チェルノブイリの臨床研究されたえらい方ということで、「放射性物質が体内に入ると、どのようなメカニズムでがんが発生するのでしょう」なんて思いっきり素朴な質問をしてみたら、その権威と呼ばれる先生は笑ってこう答えた。

 「それが分かったらノーベル賞ですよ。メカニズムが分からないから統計で証明するしかないんですよ」

 IARCも「分からない」としたように、加工肉と「発がん性物質」の因果関係も明らかにできたらノーベル賞だろう。だからこそ疫学データが重要になるわけだが、ここにはわれわれ一般人がはかりしれぬ「闇」があるのも事実だ。製薬会社が仕掛けた有名大学病院の研究不正事件や、続発した論文不正事件などを例に出すまでもなく、望む結論を導き出すためデータに細工をする研究者が少なからず存在している。北米食肉協会が主張する「インチキ疑惑」も完全には否定できない。

 とはいえ、今回の研究結果がインパクトを与えたのは事実だ。20年前の「ホットドッグ戦争」から地道にエビデンスを積み上げてきた研究者側が、WHOのお墨付きを得て優勢なのは間違いないだろう。

 果たして、ソーセージやベーコンも「たばこ」のような道をたどるのか。加工肉業界側の「反撃」に注目したい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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