なぜ建設業界は責任とリスクを“下”に押しつけるのかスピン経済の歩き方(3/4 ページ)

» 2015年11月17日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]

「多重下請け」の問題は根深い

 ただ、ほどなく歪(いびつ)な構造が明らかになる。死んだ5人は川鉄運輸という孫請けと、日拓工業というひ孫請けから派遣された作業員で、現場の元請け社員の指示を受けて動いていただけで、すえつけ作業の経験どころか高所作業の経験すらない者もいたのだ。

 この工事の元請けである株式会社サクラダの社長は、事故後の謝罪会見でこんなことをおっしゃった。

 「業者の選定や作業員の習熟度についてどの程度調査をしたかは分からないが、川鉄運輸にかなり任せていたようだ。私自身はひ孫請けの日拓工業についてはまったく報告を受けていない。通常、下請けの次までは分かるが、その先までは把握しないのが実情」

 事故の種類は異なるが、このどこか他人事のような姿勢は、今回の元請け三井住友建設ともろかぶりではないだろうか。三井住友建設の社員は、2次下請けの旭化成建材が杭を打った473本の大部分で立ち会っていなかった。しかし、問題が発覚してから1カ月逃げ回ってから定例決算会見の場でついでに謝罪。国交省の標準仕様書に沿った対応なので落ち度はないとして、不正を見抜けなかったことが「最大の責任」だとして、いまだに「被害者」というスタンスを貫く。

 こういう事例は枚挙に暇(いとま)がない。通常ビジネスの世界では、アルバイトやら派遣社員が起こした失態でも、自社の看板で行った事業の場合は会社が自分たちの責任のもとで対応をする。しかし、建設業界だけはその逆で、なにか問題が起きた時には即座に孫請け、ひ孫請けに責任とリスクを押し付ける。それは今回の会見の順番を見ても明らかだだろう。

 なぜこうなってしまうのかというと、実はこれが建設業というビジネスモデルの根幹をなすシステムだからだ。

 戦後の高度経済成長の時代、すさまじい勢いですすめられた建設ラッシュは、リスクと責任を下に押し付けることでしか成立しなかった。その「歪み」は時間が経過するにつれて表面化している。

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