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» 2015年11月17日 08時08分 公開

スピン経済の歩き方:なぜ建設業界は責任とリスクを“下”に押しつけるのか (4/4)

[窪田順生,ITmedia]
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この国の繁栄は“人柱”の上に成り立っている

 今でこそ日本では「職人は技術にこだわりがあるから不正しない」という「インディアン 嘘つかない」みたいな神話がはこびっているが、当時は今の中国みたいに突貫工事による事故やトラブルが珍しくなかった。

 1970年、万博のために急ピッチですすめられた地下鉄整備計画のなかで発生した天六ガス爆発事故では、79人の死者が出た。1990年には、東北新幹線の地下工事中、施工業者が凝固剤注入の手抜きを行い、御徒町の春日通りが5メートル陥没。他にも不正が行われているのではという疑惑がもちあがったが、真相究明よりも開通が優先されるということが起きた。阪神大震災で倒壊した山陽新幹線の橋脚を調査したところ、「手抜き工事」の痕跡が見つかったこともある。この新幹線が突貫工事でつくられたのは有名な話で、1999年にもトンネルの壁が崩落している。

 東日本大震災によって今回はたまたま「杭の深さ不足」が浮かび上がったが、過去の例からしてもまだ多くの不正が「時限爆弾」のように潜んでいる可能性は否めない。それらのすべてが「多重下請け」のせいなどど言うつもりは毛頭ない。だが、建設業界において、「多重下請け」の作業員たちが、水が高いところから低いところへ流れるうように、常にリスクと責任を押し付けられており、その「歪み」が突貫工事のような工期短縮などのプレッシャーを迫ると、さまざまな悲劇を引き起こしてきたというのはまぎれもない事実である。

 今回の杭打ちの不正の広がりを見ていると、「無差別テロ」のような印象を受ける。「多重下請け」という弱い立場の者たちが、「不正」によって建設という産業構造に復讐を果たしているかのようにも思える。

 実はこの国の繁栄は多くの“人柱”の上に成り立っているのだ。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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