普通列車の減便は通学・通勤に影響が出る。観光客には関係ないと思うかもしれない。私に言わせれば、北海道に限らず、鉄道旅行の面白さは普通列車にもある。各駅に停まって周囲の風景をゆっくり楽しめるし、ふと思い立って途中下車してもいい。お行儀が悪いけれど、地元の乗客の会話を盗み聞きすると、土地柄も伝わってくる。
普通列車の旅は鉄道ファンがこだわる程度かもしれない。しかしJR北海道は一般観光客が興味を示す列車も減らしている。10月23日に発表された冬の臨時列車は少なかった。その象徴として、札幌と網走を結ぶ「流氷特急オホーツクの風」がなかった。この列車は眺望のよいリゾート車両を使い、中央の2階建て車両1階にサロンを設けている。
この冬の運行が発表されなかった「流氷特急オホーツクの風」。数年前から故障が頻発し、他の車両による代走も多かった
車窓は北海道の広大な大地、針葉樹林を駆け抜ける。雪が載った針葉樹はすべてがクリスマスツリーのようで見事だ。道外からの観光客にとっては異国情緒さえ感じさせてくれる。終着の網走は流氷観光の拠点である。冬の北海道観光の看板といえる列車だ。それが消えた。
さらに、網走から先、オホーツク海沿岸を走る「流氷ノロッコ号」についてもこの冬限りで廃止と決めたようで、11月11日に複数の新聞が報じている。理由は機関車の老朽化とのこと。流氷ノロッコ号は夏季に「釧路湿原ノロッコ」として使うから、こちらも連動して廃止となるだろう。
今季限りで廃止と報じられた「流氷ノロッコ号」。5年前に私が乗ったときは中国・台湾からの観光客が多く満席。JR北海道も通訳を乗せて対応していた。廃止の理由は機関車の老朽化という
さかのぼれば昨年7月に、函館・札幌エリアで運行していたSL列車の廃止も決定していた。釧路方面のSLは残すけれど、これから新幹線がやってくる函館方面は廃止。機関車は東武鉄道への貸し出しが決まっている。東武鉄道は2017年度から鬼怒川温泉の観光列車として運行する予定だ(関連記事)。
JR九州は九州新幹線の開業に向けて観光列車を増やした。北陸新幹線金沢開業ではJR西日本と、のと鉄道が観光列車を投入した。しかしJR北海道は観光列車を廃止する。真逆の方針である。新幹線で北海道観光に行きたいと思う人は、飛行機利用者に比べると「親鉄道派」と思われる。しかし彼らが北海道に渡っても目的地がない。
こちらはJR四国の「しまんトロッコ」。貨車を改造したトロッコ車両を気動車が引っ張る。機関車がなくても、工夫次第でトロッコ列車は運行できる
- 鉄道会社の「虚偽申告」 鉄道事故の原因究明は十分か?
2012年2月に起こった鉄道の脱線事故で、JR北海道が提出した記録に「改ざん」があった。事故調査委員会はJR北海道の虚偽を見破った。この改ざんは直接の事故原因ではなかったが、過去の事故はどうか。再検証が必要なのではないか。
- なぜJR北海道でトラブルが続くのか
JR北海道で車両火災などトラブルが頻発している。車両の新旧や該当箇所もまちまち。共通の原因を見つけ出すとするなら、それは車両ではなく運用だ。JR北海道は昨年、整備体制の不備を会計監査院に指摘され、国土交通省から業務改善命令も受けていた。
- JR北海道は今、何をすべきか――西武鉄道にヒントあり
JR北海道の一連の整備不良問題は、ついに会社全体の不祥事となってしまった。監督官庁である国土交通省は特別保安監査を無期限で実施するという異例の処置をとっている。正すべきは正し、その後のJR北海道はどうすべきか。
- JR北海道の問題はどこにあるのか。そして解決する方法はあるのか。
列車火災、脱線事故などを発端としたJR北海道の整備ミス問題は収束どころか拡大する一方だ。いま、JR北海道の鉄道を守るために誰が立ち上がるべきか。現場の職員だ。風当たりは強かろう。しかしこれを再生のチャンスとして改革を進めてほしい。
- 新函館北斗駅不要論、北海道新幹線は1日も早く札幌へ
JR北海道は北海道新幹線の上限運賃・特急料金を申請した。東北新幹線とは合算制となり、割高感は否めない。運賃体系の決定は航空運賃を意識しているはず。しかし、函館はもともと空港が近い。北陸新幹線のような成功方式は見えない。早く札幌まで完成させるべきだ。
- JR北海道からSL拝借、東武鉄道に「ビジネスチャンス」到来
とてつもなく楽しいニュースだ。東武鉄道が2017年を目標に蒸気機関車の運行を準備しているという。JR北海道で活躍の場を失った機関車を借り受け、ついに大手私鉄がSL観光列車に名乗りを上げた。その背景に、東武鉄道のシニア顧客獲得がありそうだ。
- なぜ大井川鐵道の経営再建に北海道のホテル会社が?
トーマスは大人気だけど経営事情は厳しい。そんな大井川鐵道の事業再生支援が決まった。筆頭株主で取締役4人を送り込んでいた名鉄は撤退し、北海道のホテル再建を手掛けた企業がスポンサーとなる。一体なぜか。そこには名鉄の良心があるようだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.