CIAの“サボりマニュアル”は、なぜ「日本企業あるある」なのかスピン経済の歩き方(1/4 ページ)

» 2015年12月01日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 先日、興味深いニュースが流れた。

 CIAの前身組織であるOSS(Office of Strategic Services・戦略情報局)が作成した「敵組織の生産性を低下させる工作マニュアル」に記されていることが、日本企業の姿を的確に表現していると一部で話題になっているというのだ。

 このマニュアルの正式名は『Simple Sabotage Field Manual』。敵国に潜入したスパイが組織の生産性を落とすためのさまざまなサボり方が紹介されているもので、2008年に公開されたそうだ。目を通してみると、サラリーマンならば毎日のように目にする「日本企業あるある」が随所にあふれていることに驚かれるだろう。

 例えば、「前回の会議で決まったことを蒸し返して再検討をする」とか「ひとりで承認できることを3人の承認にするなど複雑にする」などは、「ウチの会社だ!」なんて声がいたるところから聞こえてくるのではないだろうか。

 他にも、「なるべくペーパーワークを増やす」とか「これからしようとすることが本当に自分たちの権限内なのか、より上層部の決断を仰がなくてよいのか、といった疑問点を常に指摘する」というサラリーマンなら一度はイラついたことのある企業の負の部分を見事に言い当てていることで、「ウチの部長、CIAかも」なんてジョークも交わされている。

 あてはまるのは企業だけではない。「可能な限り大きな委員会をつくって検討する」とか、「スピーディーに物事を進めると先々問題が発生するので賢明な判断をすべき、と道理をわきまえた人の振りをする」なんてのは、今の政治や行政における「なにも決められない」という問題点の根っ子をこれ以上ないほど的確に指摘している。

 なぜこの「サボりマニュアル」は、日本企業のみならず日本社会の姿とよく似ているのか。いろいろな意見があるだろうが、個人的には似ているもなにも、ここに記されている生産性を落とされた「敵組織」というのはズバリ、日本のことだと思っている。

 そう聞くと、「ハイハイ、日本の影の支配者はアメリカだったという例のアレね」とか「GHQの愚民化政策のことだろ、安倍さんのおじいちゃんの岸信介もCIAエージェントだったし」なんて敏感な反応を示す方たちもいるだろうが、ここで言いたいのはそういうイルミナティ的国際陰謀論ではない。このマニュアルは、そもそも日本型組織を「元ネタ」として作成されたのではないのかということを申し上げたいのだ。

Simple Sabotage Field Manualの一部
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