新型プリウス 名家の長男の成長池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2016年01月18日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

まっすぐ走るという当たり前

 新型プリウスで大きく進歩したのはパワートレイン、ブレーキのほかにサスペンションだろう。これも皮肉に聞こえてしまうだろうが、新型はまっすぐ走るようになった。直進安定性がごく普通になったのだ。路面の不整をひろって、ゆらーりゆらーりと右に行こうとしたり左に行こうとしたりすることがだいぶ減った。もちろんドライバーが集中力を持って微細な舵角操作を続ければ押さえ込めるが、ただまっすぐ走るだけでそこまでの真剣勝負をしなければならない義理はない。

 加えて曲がりながら大きなうねりで跳ね上げられたときにも、特にリヤの接地感が消失しなくなった。旧型ではタイヤが浮き、着地した瞬間にスキール音がするような場所で、新型はタイヤのグリップが薄くなりながらも、何とかそれを維持し、タイヤが鳴くこともなかった。

 コーナリング時にも舵の効きがずっとしっかりした。旧型はハンドルを切っても思ったよりクルマの曲がり具合が常に下回る感覚が強かった。切り足せば曲がるので「曲がらない」とは言わないが、切り始めの動きから立てた予測より常に余分に切り足さなくてはならないため、どうしても鈍重な印象になる。いわゆるアンダーステアだ。さらに切り返しで中立付近を経て反対に切り始める辺りで舵が抜ける感覚もあった。新型では予測値と結果がちゃんと釣り合うようになったし、中立付近でも手応えが途切れなくなっている。

 これらの違いはリヤサスペンションを中間連結型トーションビームからダブルウィッシュボーンに改めた結果である。中間連結型トーションビームの場合、タイヤに横向きの力がかかると、サスペンションからの振動を遮断するためのゴムブッシュのたわみで、どうしてもサスペンション全体が車両進行方向に対して斜めにズレてしまう。サスペンションがたった2カ所でボディに取り付けられているためだ。この取り付け点のゴムブッシュのたわみによって後輪の進路が左右へズレる。これがゆらーりゆらーりの原因だ。わずかな路面からの入力で直進時にリヤタイヤの向きが変わってしまうのが問題だったのだ。

 そこで、新型ではリヤサスペンションをダブルウィッシュボーンに切り替えた。この方式は、タイヤの位置決め性能に優れているので、横力が入った瞬間に進行方向のズレが起きたりはしない。また複数のリンクで構成されているため、ストローク時のタイヤの向きを積極的にコントロールできる。これまで、そういう繊細なコントロールができない中間連結型トーションビームを採用している間は、安全を保つために旋回に入ってからもとにかくリヤを強くグリップさせるしかなかった。そのため前輪が曲がろうとしても後輪がその邪魔をする。それがダブルウィッシュボーンになって緻密なコントロールできるようになった結果、リヤの踏ん張り具合をクルマの姿勢変化に応じてだいぶ適正にすることができた。鈍重なアンダーステアが解消されたのはこのリヤサスペンションのおかげが大きい。

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