米国では騒動になっているこの話は、日本では大した議論になっていない。だが決して対岸の火事ではすまなされない。
例えば、日本の住宅街で一家惨殺事件が起きたとする。そして仮に慌てて逃げた犯人がそこにiPhoneを忘れていったとしても、警察はその中身を見ることすらできない事態が起きる(iCloudのバックアップを使っていなければ完全にお手上げだ)。また事故で死亡した覚せい剤の密売人のiPhoneから、今後の捜査のために連絡先を抜き出したいができない、というケースも出てくるかもしれない。
またこんな例も考えられる。大物政治家が多数絡むと見られる収賄事件で、贈賄側はすべての情報を写真に撮ってiPhoneに記録していたが、当局が自宅に踏み込むと、本人は窓から飛び降りて自殺する。決定的な証拠はiPhoneに入っているが、どうしてもその情報にアクセスできない。その事件の規模が日本国にとっていかに大きかろうが、アップルが当局に協力することはない。
もちろん、こうした極端な例が起きることはそう多くないだろう。ただ日本の当局も、FBIと同じような問題にいつ直面してもおかしくない状況にあることを認識しておいたほうがいいかもしれない。
これは米国や日本だけの話でもない。iPhoneが世界中で5億台以上使われていることを考えれば、世界を巻き込んだ国際的な議論にしていく必要がありそうだ。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング