迷走する長崎新幹線「リレー方式」に利用者のメリットなし杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2016年03月04日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

開業日を厳守するための暴案か

 JR九州も「リレー方式」案が理不尽だとは分かっているはずだ。むしろ、世論の反発を期待して、わざと提案したかもしれない。そのくらい九州新幹線西九州ルートは混沌として、滑稽な議論になってしまっている。どこから手を付けて良いか悩ましいほどだ。

 直近の理由から遡ってみよう。JR九州が「リレー方式」を提案した理由は、政府与党が目標とした「2022年度開業」に間に合わせるためだ。2014年に九州新幹線西九州ルートを着工したとき、2022年度末開業と決めた。さらに政府与党は2015年1月に「予定をできるだけ前倒しする」方針とした。これは資金の問題で、開業後に見込まれる利益を担保に、資金を調達して建設するという方針が決まったからだ。

 ところが、九州新幹線西九州ルートには懸案事項があった。「フリーゲージトレイン」の採用だ。九州新幹線(西九州ルート)は、武雄温泉から長崎まではフル新幹線規格で建設中だ。しかし、新鳥栖から武雄温泉までは在来線規格のままとなっている。博多から新鳥栖までは現在の鹿児島ルートを使い、新鳥栖〜武雄温泉は在来線のまま。武雄温泉〜長崎はフル規格新幹線となる。そこで、博多〜長崎を直通するために、車輪をレールの間隔に合わせるフリーゲージトレインが採用された。

フリーゲージトレイン第3次試験車 動画撮影 ayokoi氏

 ただし、フリーゲージトレインの開発はトラブル続きだ。営業運転に向けて完成度が高まった第3次試験車両は台車に問題が見つかり、車軸にヒビが入って、2014年11月から試験を中断。2015年10月にはフリーゲージトレイン断念という情報も伝わった。そして2016年2月10日、国土交通省は長崎新幹線西九州ルートの開業が2025年度以降になるという見通しを示した。フリーゲージトレインの量産化が間に合わないからだ。

 長崎県はこれでは納得できない。長崎県はフル規格新幹線区間について700億円以上の建設費負担になる。何十年もの願いがようやく叶って2022年度開業と決まり、さらに前倒しできると聞かされた後で「3年遅れる」である。約束を反故にされるにもほどがある。

 何としてでも2022年度に開業してほしい。しかしフリーゲージトレインは使えない。そこで出てきた代案がJR九州のリレー方式だ。既存の設備を活用して、乗り換え方式で暫定開業するか、いつになるか分からぬフリーゲージトレインを待つか。選択肢を作ったわけだ。

 2022年開業にこだわる長崎県は前向きだ。県内でフル規格新幹線区間を作ったからには使いたい。佐賀県は、武雄温泉駅を乗り換え対応にするための改造工事費、約7億円を国が負担してくれるなら、という姿勢である。

 このままなら、政府与党と長崎県、佐賀県の合意の基で、九州新幹線西九州ルートはリレー方式に決まりそうだ。しかし、この合意には重要な視点が抜けている。「利用者はどう考えるか」だ。冒頭に述べたように「13分短縮、ただし乗り換えあり、値上げ」である。こんな新幹線なんていらない。今の特急で十分ではないか。

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