長崎新幹線「フリーゲージトレイン」に期待する真の理由杉山淳一の時事日想(1/4 ページ)

» 2014年04月25日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。2008年より工学院大学情報学部情報デザイン学科非常勤講師。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 2014年4月20日、鉄道・運輸機構とJR九州は熊本総合車両所で「フリーゲージトレイン」の新型試験車両を報道公開した。国鉄在来線規格の軌間(線路幅)と新幹線の軌間の双方に直通する車両で、いままではJR四国で走行試験や耐久試験が実施されていた。今回は九州の熊本だ。その理由はふたつある。

 ひとつは熊本県八代に九州新幹線と在来線の接続地点があるためだ。九州新幹線の新八代駅は、九州新幹線鹿児島ルートが完成するまで、新幹線列車と在来線列車の乗り継ぎが実施されたから。同じホームで乗り換えができるように、新幹線の線路と在来線の線路を並べた区間がある。この区間に車両の軌間変更装置に対応した線路を設置し、走行中における軌間変更作業の耐久試験を実施するという。

 もうひとつの理由は、フリーゲージトレインを2022年に開通見込みの長崎新幹線(九州新幹線長崎ルート)で運行するつもりだからである。長崎新幹線は、福岡県の博多駅と長崎県の長崎駅を結ぶルートである。このうち博多─新鳥栖間は現在の九州新幹線(鹿児島ルート)と共用(乗り入れ)とし、長崎県側の武雄温泉─長崎間は新幹線規格として建設される。ただし、途中の新鳥栖─武雄温泉間は在来線を使う。この在来線部分の改良は最小限度となりそうで、軌間は在来線のままだ。したがって、直通列車を走らせるには、新幹線の軌間と在来線の軌間の両方に対応した列車が必要になる。

 新型の試験車両は3代目だ。初代の試験車両は無骨な外観で、いかにも試験車という雰囲気。2代目のデザインは在来線特急電車に近づいていた。しかし窓は少なく、試験車の域を出ていなかった。3代目でようやく実用的なデザインとなった。4両編成という短さながら、顔つきは北陸新幹線用のE7/W7系に似ているし、室内に座席も設置された。

 2代目の試験車両は四国の在来線で、約7万キロの走行耐久試験と約1万回の軌間変換耐久試験を実施したという。今回披露された3代目は、新幹線、軌間変更装置、在来線の直通運転を実施し、約60万キロを走り込む予定だ。耐久性はもちろんのこと、実際の車両と同じ水準の保守性も試される。乗り心地や客室設備についての試験が加わるだろう。

photo 3代目フリーゲージトレイン試作車両(出典:川崎重工プレスリリース)
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