クレームから生まれたある女性ファンとの絆「よなよなエール」流 ガチンコ経営(1/5 ページ)

» 2016年03月17日 08時00分 公開
[井手直行ITmedia]

 飛ぶ鳥を落とす勢いだった「よなよなエール」が、地ビールブームの終焉とともにピタリと売れなくなり、8年連続の赤字で地獄の日々を送るなど、ヤッホーブルーイングが創業してからの波乱万丈ぶりを前回お伝えしました

 そこから再び事業を立て直すきっかけとなったのが、インターネットの通信販売でした。今回はネット通販の顧客(当社ではファンと呼んでいる)との間で起きた“大事件”を紹介します。

「よなよなエール」の売り上げを伸ばすためネット販売に乗り出したが…… 「よなよなエール」の売り上げを伸ばすためネット販売に乗り出したが……

突然の強いクレーム

 「もうこんなメルマガは送ってこないで! 私はあなたのくだらないプライベートの話が聞きたいのではなく、大好きなよなよなエールの話が聞きたいのよ!」

 ある日、会社のメールボックスを開いたところ、このような強い口調の指摘メールが届いていました。こんなクレームの経験は初めてだったので、サーッと血の気が引き、心臓をギュッと掴まれたような衝撃を受けたのです。

 時は2006年、ネット通販担当として孤軍奮闘しているときの出来事でした。ネット通販の可能性を実感しつつも、どうしても越えられない壁にぶち当たっていました。それは、ビール商品の販促のためにメールマガジンを出すと、注文は少し増えるのですが、同時に「メルマガ配信の中止」を要求する会員が毎回100人以上発生してしまうのです。当時のメルマガ会員は2000人ほどでしたのでかなりのインパクトです。販促したいのに、メルマガを送れば送るほど、大切なメルマガ会員が激減してしまうという事態が起きていたのです。

 「このメルマガのいったい何が問題なのか?」と、わけも分からず、頭を抱えていました。

 当時書いていたメルマガの内容はこんな感じです。

 「こんにちは! よなよなエールの井手です。今日は本当に暑い日でしたね!こんな日は冷えたよなよなエールを飲むに限ります!この機会によなよなエールはいかがですか!」

 今振り返ると、こんな無難で面白みのない内容で送っても、多くの人が無視するか、または「うっとうしい!」とメルマガ配信を中止するのは当たり前でしょうが、そのときはそれすら分かりませんでした。

 そこで、当時ネット通販で人気だったショップのメルマガを購読してみることにしたのです。すると大きな衝撃を受けました。ただの店長の日常の話で、書いている内容もぶっ飛んでいるのです。

 「あ〜、今日は朝から調子が乗らないな。会社なんて行きたくない気分。でも行かないとまた○○課長に叱られるから我慢して行くかな」など、メルマガにはあるまじき(というか、社会人としてあるまじき)ことが書かれているではありませんか。商品の案内なんかは、最後の方にちょろっと出てくるくらい。これには本当に驚きました。こんなメルマガが人気なんだと。

 でも、改めて冷静になって読み返してみると、この店長のキャラが素直に出ていて、内容は奇想天外だけど、その表現に愛嬌があり、会ったこともないけど、どこか昔から知っている友だちのような気分にさせてくれます。商品もゴリ押しせず、さりげなく自分はこの商品のこういうところが好きなんだよなと紹介しています。読み終わった後には何だか本当の友だちが褒めているこの商品を買ってみたいなという感覚が自然と湧いてきたのです。

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