7.5兆円を奪うのはどこか?2016年、電力自由化“春の陣”

“場外”で激化する関電VS. 大ガス 「奇手」を繰り出しはじめた関電の狙いとは(4/4 ページ)

» 2016年05月09日 08時00分 公開
[寺尾淳ITmedia]
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LNG調達、卸電力をめぐる大ガスと関電の“場外乱闘”

 だが、この奇妙な関係の関電と大ガスの電力小売をめぐるバトルは2016年4月、関西エリアを飛び出して首都圏での「場外乱闘」に持ち込まれた。その1つは関電と東ガスの戦略的提携で、もう1つは関電が丸紅と組んで茨城県に火力発電所を建設するというニュースだった。

 東ガスと大ガスはENNETに共同で出資して電力を供給しているから、関電と東ガスの提携は、まるで大阪でケンカ中の相手の東京に住む兄弟と仲良くするような感じがある。関電はLNG火力発電所の運営で東ガスに協力するが、60Hzの関電の電気と50Hzの東ガスの電気は、長野県と静岡県に3カ所ある周波数交換施設の容量が合計120万KWしかなく、相互融通は難しい。

 しかしそれでもビジネスとしての合理性はある。発電燃料のLNGを都市ガス生産用と一緒に輸入すればスケールメリットが出て燃料コストを抑えられるが、東ガスの発電用+都市ガス用に関電の発電用の調達が加われば、スケールメリットがさらに増す。そして2017年4月の都市ガスの小売自由化の際、関電が新規参入する都市ガス供給用がそれに加われば、調達するLNGはなおいっそうコスト安になる。1年後の都市ガス小売自由化も見据えながら関電は先手を打った、とも言えそうだ。

 一方、茨城県神栖市の鹿島工業地帯の火力発電所は当初、大ガスが丸紅と組んで建設を計画して断念した経緯がある。大ガスには関西エリア外にも発電所を設け、関西ではなく首都圏に電気を供給して稼ごうという構想がある。しかし、神栖市では結局それを断念し、同じ場所に今度は電力小売のライバルの関電が乗り込んで、木くずと石炭を燃やす11.2万KWの火力発電所を建設し、2018年運転開始を目指す計画を打ち出した。

 関電と大ガスは直接対決をしたわけではないが、完全に関西ではなく首都圏での「場外乱闘」。関電はこれ以外に千葉県市原市の11万KWのLNG火力発電所を購入し、東燃ゼネラル石油と共同で首都圏で石炭火力発電所の建設を計画。首都圏での電力販売も予定している。

 2つのニュースからいえるのは、値上げで契約者に負担させて2016年3月期にようやく5期ぶりの黒字を見込み、高浜原発の再稼働が実現した喜びもつかの間、後にコストだけを残して無残に挫折して最悪の状態で電力小売自由化を迎えてしまった関電が、燃料コストの削減、首都圏での電力販売など、何とか活路を見出そうと躍起になっている姿である。

 ライバルの大ガスにとっては大きなチャンスだが、関電のシェアを大きく侵食してしまえば関西での電力卸販売の大口契約先を失うことになりかねず、痛しかゆし。そのように思惑が交錯し、奇手も、意外な合従連衡も、降ってわいた災難も、場外乱闘もある。そんな電力マーケットの「戦国絵巻」は、見ている側にとってはなかなか面白くなってきた。

寺尾 淳の著者プロフィール:

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。

『週刊現代』『NEXT』『FORBES日本版』などの記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。


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