7.5兆円を奪うのはどこか?2016年、電力自由化“春の陣”

“場外”で激化する関電VS. 大ガス 「奇手」を繰り出しはじめた関電の狙いとは(3/4 ページ)

» 2016年05月09日 08時00分 公開
[寺尾淳ITmedia]

卸電力で実績ある大ガスと関電との奇妙な関係

 大ガスは東ガスと共に、大口需要家向けの新電力ではトップシェアのENNET(エネット)に出資している。自前の電源は、東ガスが4月1日現在、発電能力160万KWで、2020年までに300万KWに増強する計画だが、大ガスは現状でも184万KWあり、東ガスよりも大きい。大ガスの「泉北天然ガス発電所」は4基で110.9万KWという発電能力を誇る大型パワープラントだ。

 電源構成の中身は、東ガスは「LNG(液化天然ガス)火力100%」だが、大ガスはLNG火力が172.3万KWで約93%を占めるものの、それ以外に風力発電も太陽光発電も、家庭用燃料電池「エネファーム」からの電力の買い取りもある多様な形。自前で和歌山県など5カ所に風力発電所、大阪湾岸など6カ所に太陽光発電所を有している。

 新電力は、登録小売電気事業者が200社を超えて数こそ多いが、自前の火力の大型電源を持つところはあまりない。電力会社、ガス会社以外では製油所に発電設備を設けた大手石油会社ぐらい。発電規模が小さい水力や風力や太陽光は地産地消型のローカル事業にとどまる。通信系など大部分の新電力は、他から電気を仕入れて契約者に販売する「電気の商社」のようなものだ。

 それに対し自前の電源を持つガス会社の強みは、発電燃料のLNGを都市ガス生産用と一緒に輸入しスケールメリットで燃料コストを抑えられる点と、電力会社や新電力に電気を販売する「卸電力」を収益源にできる点だろう。卸電力であげた収益を電力小売の料金値下げの原資に回せば、今後の電気料金の引き下げ競争で「プライスリーダー」になることもできる。この卸電力事業で、大ガスは東ガスよりも実績がある。

 東ガスより発電能力が大きいのは以前から卸電力を積極的に進めてきたおかげだ。主な販売先はENNETと関電だが、中部電力などにも卸している。真夏の需要ピーク時などは日本卸電力取引所(JEPX)の「電力スポット市場」を通じ、周波数が同じ60Hzの西日本の電力会社にも融通してきたが、融通先に今度は新電力も加わる。「時価」で高く売れるスポット市場で売れば利幅が取れる。

 大ガスは2015年3月期、連結ベースで1年間に83.6億KWの電力を販売したが、2011年3月期の71.4億KWから4年で17.1%増えている。これはさらに伸びるだろう。

 一方の関電は、かつて日本原子力発電の敦賀原発も含めると原発依存度が50%を超えていたが、その全原発が停止中の間、大ガスは不足を補う重要な電力調達先だった。2015年3月期決算の「購入電力料」は5711億円で、東日本大震災前の2011年3月期の3782億円と比べて約1.5倍に増えているが、その約4割は「卸供給事業者」からの購入で、関電が大口供給契約を結ぶ大ガスのグループ企業、泉北天然ガス発電の存在は大きい。

 高浜原発の再稼働は、コストが安い自前電源を復活させて大ガスへの依存度を下げるチャンスだったが、再稼働後のトラブルと司法に阻まれ、「次は大飯原発の再稼働」という青写真も狂った。関電にとって大ガスは、電力小売のライバルでありながら電気を買う調達先でもあるという、ケンカの相手に飯を食べさせてもらうような奇妙な関係だが、それは今後もしばらく続くことになりそうだ。

photo 「泉北天然ガス発電所」

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