三菱自動車の日産傘下入りが「シナリオ通り」に見えてしまう3つの理由スピン経済の歩き方(6/6 ページ)

» 2016年05月17日 08時05分 公開
[窪田順生ITmedia]
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日産と三菱自の「資本提携」は悲願

 謝罪会見でボコボコにされた相川哲郎社長は、最高執行責任者(COO)。会長に退いたとはいえ最高経営責任者(CEO)はいまだに益子氏である。企業の存続にかかわる不祥事の対応に経営トップが初動からノータッチというのはどう考えても解せない。日経編集委員の西條郁夫氏も以下のように指摘している。

 「益子会長は三菱自動車の社長になった直後の2005年3月に今回と同じ国土交通省の記者クラブで会見し、情理を尽くした説明で「リコール隠し糾弾」にいきり立つ記者クラブの面々を納得させた一幕があった。それほどのコミュニケーションの名手がなぜ今回不在だったのか」(日本経済新聞4月26日)

 これはまったく同感だった。益子氏はこの9年、三菱自を守るため常に先頭で奮闘してきた。そんな人物が最も出なくてはいけない場に出てこない。もはや引責辞任は避けられないなかで今さら、責任逃れをしてもしょうがない。なにか理由があるのかと首を傾げている矢先、11日にようやく登場。そして翌日には日産のゴーン社長との共同記者会見に登壇されるのを見て、ようやくモヤモヤが消えた。

 日産と三菱自の「資本提携」というのは長く進められてきた悲願だ。その記念すべき日の「顔」となるのは、2004年から蜜月にあったゴーン氏と益子氏と決まりである。

 そうなると、燃費不正問題の会見では出せない。当然だ。相川社長が「不正の三菱」を象徴する顔となってしまったことからも分かるように、益子会長にネガティブなイメージが付いてしまうからだ。

 これは非常に興味深い。三菱自が燃費不正で益子会長を「温存」していたということは、不正を公表した時点ですでに益子会長を「資本提携の顔」にする方針が定まっていたということになるからだ。

 すべては「日産三菱」をつくるための筋書き通り――。ご本人たちは否定されているが、今後のことを考えると、このようなイメージを広めたほうが良い気もする。

 これでルノー・日産・三菱自は世界3位のGMにも手が届く。ゴーン社長は、かつて三菱自と組んでいたPSAとの大連合も視野に入れているという。「世界一」の座はきれいごとだけではつかめない。「陰謀論」がバンバン沸き起こるほどの「したたかさ」はむしろ必要ではないか。権謀術に長け、ギラギラした目で野心に燃えた「日産三菱」になることを期待したい。 

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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