「中立である」はずなのに……。なぜ米国のメディアは特定の候補者を支持するのか世界を読み解くニュース・サロン(2/5 ページ)

» 2016年05月26日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

メディアの「エンドースメント」

クリントンは80近い新聞社から支持表明を受けている(出典:Hillary for America)

 新聞社が大統領候補の支持者を表明することは、メディアの「エンドースメント」と呼ばれる。このエンドースメント、実は非常に歴史が古い。例えば、1世紀以上前の1860年には、ニューヨークタイムズ紙が共和党の大統領候補だったエイブラハム・リンカーンに支持を表明している。そして現在までその伝統は続き、例えば2012年の大統領選挙では、全米から41の新聞が民主党のバラク・オバマ大統領を、35の新聞がミット・ロムニー共和党候補を支持すると表明した。

 そんな古くから行なわれているエンドースメントだが、その慣例はもちろん、日々のニュースを報じる社内の「ニュース部門」の考え方と完全に相反する。新聞のニュース報道はとにかく「中立性」「バランス」が念頭に置かれ、それを逸脱することは、メディアとしての信頼度の失墜に直結する。当然、ほかのメディアからも厳しい指摘を受けることになる。

 こう見ると、新聞には“支持表明”と“バランス報道”という矛盾が存在していることになる。これはどう理解すればいいのか。

 エンドースメントは新聞社内の「編集委員会」が行っている。この編集委員会とは、完全にニュース部門とは隔絶されて存在している。候補者の支持、というような意見を表明するのは編集委員たちであり、バランスある偏見のない報道を目指しているニュース部門の記者や編集者、カメラマンなどではないのだ。

 編集委員とニュース部門の間には“厚い壁”が存在し、両者が交わることはない。例えば2012年に読者からの質問に答えたニューヨークタイムズ紙のジル・エイブラムソン編集長(当時)は、大統領選の支持表明などをする自社の編集委員会について、「(ニュース部門の)編集長として、編集委員会と一切つながりはない」と内情を語っている。「彼らの記事(エディトリアル=社説・論説記事)は、私自身も読者の皆さんと同じように、紙面で初めて読むのです」

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