実際のところ、米国人でも混乱する人は少なくない。読者にしてみれば、ワシントンポスト紙はワシントンポスト紙であり、そこに2つの顔はない。「編集員会」と「ニュース部門」の違いという新聞社側の理屈を押しつけるのはどうかとの意見もある。
ちなみにウォールストリート・ジャーナル紙は、ハーバート・フーバー第31代大統領の支持表明を最後に、1928年にエンドースメントを止めている。USAトゥデー紙も創刊から一度もエンドースメントはしていない。最近でもエンドースメントを止めると宣言している新聞は続出しており、2012年の大統領選挙では、全米トップ100の新聞社のうち23社がエンドースメントを止めている。
モンタナ州で発行されているグレートフォールズ・トリビューン紙もその1つだ。発行人であるジム・ストラウスは、2012年にエンドースメントを止める際にこう語っている。「ますます多くの読者がニュース報道と論説ページの違いを見出せなくなっている。本紙のニュース記者はエンドースメントに決して口を挟むことはないが、多くの読者がそれを信じていない。支持者を表明したら、読者はそれ以降すべての記事が、特定の候補者に偏っているとレッテルを貼る」
エンドースメントという米国のメディア文化が消滅するのも、時間の問題なのかもしれない。
山田敏弘
ノンフィクション作家・ジャーナリスト。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト研究員を経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。
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