大物IT起業家がハルク・ホーガンを利用してメディアを潰しにかかったワケ世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2016年06月16日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

Facebookで取締役、いかがものか

ピーター・ティール

 ティールはホーガン以外にも、ゴーカーを訴えているほかの人たちにも多額の支援金を提供していることが分かっている。こうしたティールの動きに、富豪などが経済力を使って個人的な恨みでメディアに報復することへの疑問の声が出ている。

 ライターなどが属する全米脚本家協会は、ティールが取締役を務めるFacebookに、ティールを解任するよう署名運動を開始している。そして「私たちは、ピーター・ティールがゴーカーを破産に追いやる目的で、数十億ドルの資産から訴訟に援助金を出したと知り、ショックを受けている。私たちは、Facebookに対し、ティールを取締役から外すよう要求する。自分の気にいらないジャーナリズムを抑え込もうとする人間が、何千万という人たちのためにデジタルニュース・ポータルを提供するFacebookで取締役として居座るべきではない」と訴えた。

 ちなみにゴーカーメディアが運営する米ギズモードは、FacebookなどのSNS企業などに対して厳しい記事も掲載する。2016年5月にも、Facebookのページの右上に表示されるニュース配信欄「トレンド」で作為的に保守系のニュースが排除されているという関係者の証言を記事にして騒ぎになり、Facebookが慌てて対応する事態になった。ティールが資金力を駆使してゴーカーを叩き潰すことで、このような自分または取締役を務めるFacebookなどにとって都合の悪い情報を報じるメディアを黙らせようとする意図があると思われてもしょうがない。だがティールに、メディアの記事を掲載・不掲載と規制する力も権利もない。しかもそもそもティールは表現の自由を支持している人物として知られていた。

 またこの問題は、近年乱立しているブログ系サイトを始めとするメディアにとっても由々しき事態になりかねない。富豪が多額の資金を注ぎ、メディアを裁判などで破産させるようなことが続けば、メディアは萎縮してしまいかねない。結果的に表現の自由を脅かすことになる。また富豪はティールだけではない。他の富豪が気にいらないメディアを選んで潰しにかかるケースが続く可能性も考えられる。

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