世界の中で「かつら(ウィッグ)」や「つけ毛(エクステ)」といった頭髪装飾品が最も消費されている地域はどこかご存じだろうか?
人口が多いアジアでも、ファッションの発信地であるヨーロッパでもない。正解はアフリカだ。カネカ推計では2014年度に全世界での消費の約50%に上るという。髪を長く伸ばすことが難しい毛質であるアフリカの女性の多くにとって、頭髪装飾品は身近なおしゃれの手段なのである。
このアフリカで60%の市場シェアを、世界でも40%という高いシェアを持つリーディングカンパニーが、化学メーカーのカネカである。同社が生産する合成繊維「カネカロン」で作ったウィッグなどが多くの消費者から支持を得ていて、特にアフリカではカネカロンのブランド認知度が圧倒的に高いそうだ。
なぜカネカが手掛ける頭髪装飾品は売れるのか。同社のこれまでの取り組みなどについて、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)の大薗恵美教授が、頭髪装飾商品事業を統括するカネカの天知秀介取締役 常務執行役員に聞いた(以下、敬称略)。
大薗: カネカは古くから頭髪装飾用の繊維を提供しているわけですが、歴史を振り返ると、1970年代にファッションの世界でウィッグが流行し、国内外のさまざまなメーカーが素材を提供していました。しかしブームが去り、多くの会社が撤退を余儀なくされた中で、カネカが事業を継続できた理由は何でしょうか?
天知: 当時は確かに街のあちこちでウィッグが売られていました。露店のようなところでも販売されていて、品質の悪い製品が溢れていました。カネカはそれ以前から米国で白人女性用ウィッグ向け合成繊維を販売していて、アクリル系繊維の製品が人毛に近い品質だと評判でした。小さいながらも安定したマーケットだったので、ブームが去った後も事業を続けることができたのです。
大薗: 米国マーケットもファッション用途でしたか?
天知: はい。例えば、パーティーに行くときにおしゃれしたり、ちょっとイメージを変えたりする際に、白人女性はウィッグをかぶる習慣がありました。
大薗: 品質という点で、競合他社と比べたカネカの優位性は何でしょうか?
天知: より人毛に近づけることが差別化につながります。人毛というのはよくできていて、寝癖がついても少し水分を与えて熱を加えれば元に戻るし、からんでもクシでとかせばいいわけです。今の合成繊維だとそこまでできないのですが、カネカロンは人毛に近く、風合いや付け心地が良いということで支持されています。
また、すべての頭髪装飾品が難燃性という点も強みでしょう。繊維を燃えにくくするのは技術的に難しく、コストも高くなるのですが、カネカロンの製品は安全性を最優先して非難燃性の素材は扱っていません。
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