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» 2016年07月15日 08時00分 公開

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:どこが違うのか クルマと鉄道の「自動運転」 (6/6)

[杉山淳一,ITmedia]
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自動車の自動運転技術はLRTにも有効

 自動車の自動運転では、道路に飛び出してきた人や障害物を検知して停止する機能がある。列車にはこの装置はない。線路は立ち入り禁止という前提があるからだ。踏切には障害物検知装置があり、誰かが立ち止まると運転司令所や列車に警報を出す。

広島市では路面電車と並走する自動車との衝突事故、右折待機中の自動車との衝突事故、直前を横断する自動車との衝突事故に対応する車車間通信システムの実験が行われた(出典:マツダ技報「広島ITS実証実験における路面電車-自動車間通信型ASVの機能検証」) 広島市では路面電車と並走する自動車との衝突事故、右折待機中の自動車との衝突事故、直前を横断する自動車との衝突事故に対応する車車間通信システムの実験が行われた(出典:マツダ技報「広島ITS実証実験における路面電車-自動車間通信型ASVの機能検証」

 それでも踏切事故は起こるし、ホームから自殺者が飛び込む事態はある。列車にも障害物検知装置があれば、踏切事故やホームの人身事故は減るかもしれない。しかし、恐らく搭載されないだろう。ここがクルマと鉄道、あるいはバスとの違いだ。鉄道が守るべき安全の対象は乗客だ。簡単に非常ブレーキを作動させると車内の人々に衝撃を与え、危険である。

 鉄道会社は表だって言わないけれど、踏切や線路内に立ち入る人の安全施策は優先度が低い。「乗客の安全のためなら、ルールを守らない人は死んでもやむを得ない」という仕組みである。だからこそ踏切やホームの端は危険なのだ。本当は鉄道会社も明示すべきだとは思うけれど、子どもやドライバーに交通法規を教える人は、鉄道会社が乗客以外の安全を保証しないことをきちんと伝えるべきだろう。

 ただし、自動車の自動運転技術の中で、鉄道にも使える技術はある。確かに車両側の障害物検知装置は普通の鉄道には不要だが、路面電車には搭載すべきかもしれない。路面電車は道路の交通法規に従うため、閉塞という考え方をしない。だからこそ速度は制限され、続行運転が可能になっている。

 自動車の自動運転は安全面だけではなく、輸送効率向上という目的もある。自動追尾システムがそうだ。トラックを車間距離4メートル程度で隊列走行させる。ドライバーは先頭車両のみ。この仕組みは、路面電車やLRT(ライトレール)に応用できる。ラッシュ時の路面電車は続行運転しているし、連接車体の大型車両を使う場合もある。隊列走行する仕組みがあれば、運転士一人で複数の車両を運行できる。時間帯によって大型連接車両と小型車両を使い分ける必要はない。同じ小型車両を量産配置すればいい。自動隊列走行は、車両調達コストや人件費削減につながる。

 2013年に広島市で、マツダ、広島電鉄、東大などが参加して、自動車と路面電車の車車間通信によって安全性を高める実験が行われた。自動車の自動運転と鉄道の自動運転は、技術の成り立ちも考え方も違う。しかし、路面電車やLRTは道路交通の参加者だ。

 一方で、「自動運転車が普及すれば公共交通機関は不要」という考え方もある。自動車の自動運転の普及によって、公共交通機関のすみ分けが変わってくる。これは別の機会に論考を試みるとして、鉄道業界も自動車の自動運転には大きな関心を持っているはずだ。

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