と、絶賛に近い原稿を書いた後で、一番の問題点を書かねばならない。
八郷社長は国内でのNSXの販売予定数を聞かれて、年間100台と答えた。たったそれだけ? 特殊な技術がふんだんに投入されているため、生産の問題があるのかもしれないが、そうならないようにしないとビジネスが続けられない。新型NSXは確実にスーパーカーのリーグで戦うクルマだ。今度こそトップエンドグループで戦えるのではないか? スペックを見てもそれは明らかで、最大出力581馬力、最大トルク65.9kgf-mとなっている。そうなると価格の2370万円は安すぎる。シビックのTypeRで「FF車ニュル最速」を目指すよりも、NSXでスーパーカー最速を目指すべきだったのではないかと思う。
それを販売予定台数100台とはどういうことか? ピンと来ない方もいるだろうから、以下、一般社団法人日本自動車販売境界連合会の2015年度統計より、月別の販売台数を抜き出して2015年の12カ月分を筆者が集計してみた。
スポーツカービジネスの憧れの的であるポルシェが別格なのは分かるとして、本来マセラティと同等には売るべきではないか? 百歩譲ってもフェラーリの半分くらいは売らないとエンジニアが気の毒だ。
発表会の質疑応答で、ホンダのビジネス全体の中でNSXが果たす役割はと尋ねられて、イメージアップによってフィットやフリードの販促に効果があると答えたのも、どうもしっくり来ないし、多くの人が心配する継続生産のための方策はあるのかという問いには回答すらなかった。
ホンダの最大の問題はそこにある。各車のTypeRにも、ビートにも、S2000にも、先代のNSXにも熱烈なファンがいたのだ。もの凄いクルマを作ることは尊敬に値するが、それをみな生産中止にしてしまう。サステナビリティは顧客に提供する価値の基本ではないか?
販売的無策によってその価値が提供できないことはホンダブランドの信頼を落としている。初代NSXはキチンと生産を続けていれば、恐らくポルシェ911と戦える商品になっていたと筆者は信じている。欠点が無かったとは言わないが、それだけのクルマだった。ホンダファンの期待に応えるためにも、設計以外のことをもう少し近代化すべきタイミングだと思う。
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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