日本のおじさんたちが、「アデランス」をかぶらなくなったワケスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2016年10月18日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

「ハゲを隠した男は幸せになる」というプロパガンダ

斬新なCMの効果もあって、アデランスは1976年にアートネイチャーに追いつく(出典:アートネイチャー)

 この斬新なCMの効果もあって、アデランスは1976年にアートネイチャーに追いつくや、一気に突き放して業界のトップに躍り出る。これは裏を返せば、アデランスが、「ハゲを隠した男は幸せになる」というプロパガンダを見事成功させたということでもあるのだ。

 しかし、このプロパガンダは1990年代になると、その効果が次第に薄れていく。竹中直人さん、西村雅彦さんなど「ハゲ」を隠すでもなく、むしろ個性とするような有名人が次々と現われ始めたのだ。海外でも、ジャン・レノ、ブルース・ウィリス、ショーン・コネリーという「海外セレブハゲ」も次々と注目を集めるのだ。

 2000年代に入ると、この動きはさらに加速していく。経済界では、「髪の毛が後退しているのではない、私が前進しているのである」「ハゲは、病気ではなく、男の主張である」などの名言で知られる孫正義さんや、スティーブ・ジョブズが「成功者」としてスポットライトが当たると、「堂々として自信に満ちた潔いハゲ」は「恥」どころかカッコイイという評価もされるようになったのだ。これが「かつら」業界に与えた打撃は大きい。

 さらに、拍車をかけたのが、カツラを装着していることが周囲にバレる、いわゆる「ヅラバレ」に対するネガティブイメージの普及だ。

 かつては「ハゲ=恥」だったにもかかわらず、薄毛を隠さず堂々とした人々が多くなったことで、薄毛を隠して世をあざむいている人々の姿勢、またはその秘密が露呈した状況のほうが「恥」となる逆転現象が起きたのだ。

 分かりやすいのが、朝の情報番組『とくダネ!』の小倉智昭さんだ。

 ご存じのように、小倉さんは週刊誌や講演などで自らのカツラ着用をカミングアウトされており、特に隠していない。しかし、2003年4月ごろ、『とくダネ!』のオープニングで元気よくあいさつをしたときに、その勢いでカツラが下に落ちるという放送事故があった、というニセ動画が話題となり、東スポの一面に掲載されてしまう。これはつまり、世の人々が「有名人のヅラバレ」は放送事故レベルの衝撃的なアクシデントであり、すなわち最大級の「恥」ととらえている証なのではないか。

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