世界に通じる観光列車へ! 「木次線ワイン&チーズトレイン」から始まる未来杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)

» 2016年10月21日 06時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

木次線が直面する2つの危機

 木次線は1916年に簸上(ひかみ)鉄道として宍道駅から木次駅まで開業した。「たたら製鉄」で財をなした絲原(いとはら)家が「近代製鉄によってたたら製鉄が衰退しても、鉄道があれば新たな産業が生まれる」と人々に説いて出資し、足りない資金を集め、建設を推進したという。後に国有化されて木次線となり、木炭の輸送で地域を支えた。

 それから100年が経ち、木次線は新たな試練に立ち向かう。1つは路線の存続問題、もう1つは奥出雲おろち号の老朽化だ。

奥出雲おろち号の老朽化対策が課題 奥出雲おろち号の老朽化対策が課題

 ローカル鉄道の存続方法は3つある。路線単体で黒字になること。これは突き詰めれば人口問題であり、マイカー抑制でもある。政策を伴う話になる。次に、赤字でも地域にとって必要な存在であり、自治体が支援する価値があること。そして、赤字でも沿線の産業に利益をもたらし、自治体が支援する価値があること。税金を投入しても、納税者の皆さんが納得できる。これらは第3セクター鉄道の存続の条件でもある。

 しかし、木次線のように、大きな鉄道会社の1路線の場合は、もう1つの可能性がある。「鉄道会社にとって残す価値がある存在」になることだ。ここに観光列車の役割がある。木次線の存続のために必要な観光列車とは、木次線の集客になる列車、沿線地域に観光客を誘ってくれる列車、それだけではなく、JR西日本にとって必要な列車だ。

 観光列車を走らせても運賃収入は限られる。木次線の赤字解消には足りない。しかし、全国から、特に近畿、山陽、北九州から、JR西日本の新幹線や特急列車に乗って木次線の観光列車に乗りに来てもらう。これはJR西日本にとって見逃せない売り上げになるはずだ。木次線の観光列車はJR西日本にとって必要な存在になり、その列車を走らせる木次線はJR西日本にとって必要な路線、となる。

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