先述した奥出雲葡萄園は、雲南市郊外にある美しいワイナリーだ。日当たりの良い丘陵に葡萄畑が広がり、ゲストハウス(レストラン)もある。ギフトショップで地元の木次乳業が作ったチーズも販売している。
そのほかにも、出雲蕎麦、日本酒、日本初のたまごかけごはん用醤油「おたまはん」などが有名だ。雲南市は養鶏も盛んで「日本たまごかけごはんシンポジウム」の開催地でもある。おいしい牛乳とたまごを組み合わせればスイーツにも期待できる。演劇も地域に根付いている。
実は木次線沿線は観光列車のネタの宝庫だったのだ。ワインとチーズだけではなく、蕎麦と日本酒とスイッチバックをからめた「千鳥足トレイン」、「TKG(たまごかけごはん)トレイン」、「スイーツトレイン」や、日本では「シアターキューブリック」の公演で知られる列車内演劇もできそうだ。
奥出雲おろち号はトロッコ車両だ。寒い時期は運行しにくい。しかし、食事付き観光列車は、旬の食材を選べば通年運行できる。運行期間の延長は、旅行客に出発のチャンスを増やすだけではなく、沿線の人々にとって、商機を増やす効果もある。
雲南市はまず、ワインとチーズに注目した。日本にはワインとチーズをテーマとした観光列車はない。実現すれば、日本でここだけの観光列車ができる。国内外でワインは嗜好品だけではなく文化でもある。日本だけではなく、海外のワイン通にも楽しんでもらえるだろう。大きな目標として、米国・カリフォルニア州で有名な「ナパバレー・ワイントレイン」に並ぶ存在になりたい。そうなると、JR西日本にとって重要なだけではなく、日本の観光戦略にとって重要な列車になる可能性もある。
新しい観光列車について、良いアイデアだけど実現は厳しい、という意見もあったようだ。理由は「奥出雲おろち号のように運行支援をする予算がない」とのこと。しかしこれは「運行支援してでも実現したい」という評価とも言える。
ただし、この観光列車は運行支援を利用して走らせてはいけない。開業100周年記念として単発で終わらせてもいけない(関連記事)。3年、5年、10年先も継続する事業とする。だから補助金は不要。JR西日本も、地元の企業も、きちんと利益を出せるように料金を設定すればいい。観光列車は安ければいいというものではない。お客さんの満足感と料金のバランスが取れていれば問題はない。
観光列車は運輸業ではなく、リゾート・レジャー産業だ。誰かが一方的に損を感じては成立しない。お客さんも働く人も、かかわるすべての人々が納得し、笑顔になる。そうならないなら、やってはいけない。これが遊びに関するビジネスの本質だ。なぜなら、観光列車がなくても人は生きていけるから。なくてもいいことをやるからには、楽しく、嬉しくなければ意味がない。
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