トヨタが送り出したTNGA第2弾 C-HRの実力とは?池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年11月28日 07時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

 さて一度整理しよう。C-HRが担う役割は以下の通りだ。

  • 売れているコンパクトSUVにプリウスコンポーネントで打って出て、販売台数をかさ上げすること
  • TNGAが目指す、もっといいクルマを実現し、走りの実力を進化させること

 つまり販売競争で勝ちつつ、製品改革を成し遂げる。いかにもトヨタらしい。そういう覚悟を保ってC-HRは開発された。販売の方はいつものトヨタだが、走りの方はどうもいつもと気合いの入り方が違う。トヨタのリリースによれば、走りのコンセプトは「我が意の走り」である。正直なところ、ちょっと調子が狂う。トヨタの人には大変申し訳ないが、マツダかスバルあたりが言い出しそうな言葉である。少し前のトヨタからは想像が付かない。トヨタは変わったなぁと思う。しかしスローガンはスローガンとして、本当にそういうものになっているかは、走ってみないことには何とも言えない。

車両の全高に対して大きなタイヤで踏ん張らせ、さらにフェンダーでそれを強調する形によって「たくましさ」を演出している 車両の全高に対して大きなタイヤで踏ん張らせ、さらにフェンダーでそれを強調する形によって「たくましさ」を演出している

C-HRとプリウスと何が違うのか?

 インプレッションに入る前に、ざっくりと狙いの違いに触れておきたい。C-HRはプリウスと商品としての役目が違う。プリウスはトヨタの威信を賭けても燃費のチャンピオンでなくてはならないクルマだ。だから転がり抵抗を増やすわけにはいかない。当然、タイヤサイズも上げられないし、燃費競争で勝つために燃費に特化したタイヤを履くしかない。

 エンジニアに聞くと「違う銘柄にしたら5キロは燃費が落ちます」という。パラメータをそれだけ燃費に振り向けたタイヤのバランスが良いわけがない。C-HRはその辺りでプリウスほどの無理をしなくて良い。だからワイドで大径なタイヤを履くことができる。筆者は必要以上にワイド&大径に振れることは感心しないが、むちゃなエコスペシャルよりははるかにマシだと思っている。

 注目すべきはパワーユニットで、プリウス同様の1.8リッターハイブリッド以外に1.2リッターのいわゆる小排気量ターボが搭載されている。駆動方式も異なり、ハイブリッドはFF、ターボには4WDが組み合わされる。出力はハイブリッドが98(エンジン)+72(モーター)馬力、ターボは116馬力となっている。

 サスペンションはプリウス用を基本にしながら、前後にザックス製のショックアブソーバーを採用し、スタビライザーの強化やブレーキ径のアップなどが行われている。重心高が上がるSUVの場合、増加するロールモーメントへの対抗上、必要な措置ではあるかもしれないが、ブランド物のアブソーバー辺りには、走りのレベルを上げるためにコスト増加を許容する気持ちが見えている。

 おもしろいのはコア技術であるTNGAをトップダウンで受け入れさせるだけでなく、チーフエンジニアがその技術に対してボトムアップの提案を行うシステムを作ったことだ。向きの違う2つのベクトルこそが「もっといいクルマ作り」の両輪になるとトヨタは説明しており、例えば、それはインテリアなどにも生かされている。

 かつて、共用部品をいかに多くするかが競われていた時代があった。言うまでもなくコストダウンのためだったのだが、それは当然のごとく商品の無個性化を招いて魅力を低下させた。しかしC-HRでは「お客さまが見て、触れるところは魅力あふれる専用品」を採用するとトヨタは言う。

 TNGAというコンセプトの中心にはモジュール化がある。だからトップダウンだけでは無個性化が起きやすい。それを起こさないために、チーフエンジニアが基準を設け、どこを専用品化するかのガイドラインを設定する。それによって、低コストかつ、個性豊かなクルマを作ることをトヨタは狙っているのだ。

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