国内プロ野球、メジャーリーグを中心に取材活動を続けているスポーツライター。セ・パ各12球団の主力選手や米国で活躍するメジャーリーガーにこれまで何度も「体当たり」でコメントを引き出し、独自ネタを収集することをモットーとしている。
野球以外にもサッカーや格闘技、アマチュアスポーツを含めさまざまなジャンルのスポーツ取材歴があり、WBC(2006年第1回から2017年第4回まで全大会)やサッカーW杯(1998年・フランス、2002年・日韓共催、2006年・ドイツ)、五輪(2004年アテネ、2008年北京)など数々の国際大会の取材現場へも頻繁に足を運んでいる。
大相撲春場所は劇的な形で幕を閉じた。新横綱・稀勢の里が逆転優勝。13日目の横綱・日馬富士との一番で左上腕部を負傷して出場が危ぶまれたが、新横綱としての責任感から強行出場の道を選んだ。そして千秋楽の取り組みまで勝ち星でリードを許していた大関・照ノ富士を相手に本割、そして優勝決定戦と連勝して見事賜杯を手にした。
稀勢の里には素直に拍手を送りたい。一方で、幕内最高優勝を目前にしながら大願成就ならず、Vが手元からスルリと逃げてしまったのは照ノ富士だ。今回は2場所連続優勝を成し遂げた稀勢の里の“噛ませ犬”となった大関の置かれた立場をクローズアップしてみたい。
今場所の優勝争いの図式は非常に分かりやすかった。「稀勢の里=善」であることに対し、「照ノ富士=悪」がどうしても世間に印象付いていた。
14日目、照ノ富士は関脇・琴奨菊を相手に立会いの変化から、瞬時のはたき込みで1敗を死守。古傷の左ひざ負傷に苦しむ中、何としてでも優勝に望みをつなげたかったのであろう。だが世間の多くの人たちはこれを「良し」としなかった。しかも相手の琴奨菊はすでに5敗しており、来場所大関への返り咲きに必要な10勝に到達するにはもう後がなく、この一番がラストチャンスだった。こういうシチュエーションで照ノ富士があっさりと注文相撲(突進してくる相手の勢いを利用して倒すこと)で琴奨菊の望みを絶ち、白星をもぎ取ったことから猛烈な批判を受ける形となったのである。
取組当日、エディオンアリーナ大阪の場内でこのようなヤジが飛び交った。「モンゴルへ帰れ!」――。スポーツ報知の記事(3月26日付け)でも見出しになった言葉だ。言うまでもなく照ノ富士はモンゴル出身。しかしながらメディアが、明らかに心ないファンのヤジに焦点を当ててしまうのはいかがなものか。見出しにすることで、この言葉が“正当化”されてしまう恐れがあるからだ。ネット上でも、この記事について「ヘイトスピーチ」を煽(あお)るものとして疑問を投げかける意見があったが、これには筆者も同感である。
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