男性育休取得率92.1% メルカリ人事制度のカギは? 「merci box」活用されるワケ(1/2 ページ)

» 2017年04月28日 10時49分 公開
[溝田萌里ITmedia]

 フリマアプリ最大手のメルカリは、ベンチャーでありつつも手厚い人事制度で知られている。制度の名は「merci box(メルシーボックス)」だ。

 merci boxとは、社員の生活、家庭環境を支援するための制度。産休・育休期間中の100%給与保障、子どもの看護・家族の介護の休暇取得、妊活や病児保育支援など、さまざまな方向から社員を支援する。4月中旬には、社員の子どもが認可外保育園に入園する場合、保育料の差額を全額負担する支援も追加された。

メルカリの人事制度「merci box」が活用されるのはなぜ?

 「作ったはいいものの、社員に使われていない」ということも多い人事制度だが、メルカリでは活用されている。2016年の2月に導入し、これまで「女性の育休取得率が100%、男性が92.1%、全体では95%」という成果を出した。「merci box使った?」という会話は社内で日常的に交わされているという。

 男性の育休取得率が高いのは、執行役員をはじめとする経営陣が育休を取得しているなど、上層部が事例を作っていることが大きい。そもそも、産休・育休支援については、小泉文明社長が実際に子育てをする中で生まれた気付きが盛り込まれている。

 さらに社員に親しまれている大きな要因は「キャッチーなネーミング」だ。Webサービス企業では、耳に残るような人事制度の例がいくつかある。サイバーエージェントの「macalon(マカロン)パッケージ」や、マッチングアプリ「Pairs」を運営するエウレカの「baniera(バニエラ)」――merci boxもその1つだ。

 「『妊活支援制度』といった固い名前では覚えにくいので、あらかじめキャッチーな名前にすることはこだわっていました。制度の中身は1週間で決まったのに、しっくりとくる名前を見つけるまでに2週間かかったほどです」(以下、メルカリ広報部の中澤理香氏)

 フランス語で「ありがとう」という意味の単語を含んだ「merci」は語感も良く、つづりも会社の名称である「mercari」と近いということで採用が決まった。

 採用広報という点でも人事制度がキャッチーな名前であることは重要だ。最近はmerci boxの認知度も上がり、転職者の関心を集めるようになったという。「人事制度を目的に入ってくる人材を求めているわけではありませんが、福利厚生が手厚い大企業にいる優秀な人が転職を考えた際に、メルカリが選択肢に入ることは大きいと考えています」と中澤氏は語る。

「アップサイドではなくダウンサイド」

 メルカリが「バリュー」として掲げる理念は3つだ。「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional (プロフェッショナルであれ)」――merci boxもまた、会社の理念に沿って社員が安心して思い切り働くために作られている。

メルカリの企業理念を書いたステッカー。缶バッジなども作っている

 中澤氏によれば、merci boxの基本的な思想は、アップサイドではなくダウンサイド。アップサイドとはランチ代や家賃など、個人によって使い方が異なる部分で、メルカリはあえて補助対象にはせず、給料のベースをアップすることで対応している。一方で、ダウンサイドとは、妊娠、出産、病気など、「働けなくなるリスク」のこと。ここをカバーすることで、社員に安心して働く場を提供するという目的が根底にはある。

 そのため、社員の年齢に合わせて、ライフイベントにおけるリスクに対応した制度を「ボックス」の中に追加していく予定だ。例えば、16年の7月には「妊娠」というフェーズを考え、「不妊治療の費用補助」を付け加えた。今後は、社員の年齢が上がっていくことを考慮して、親の「介護」にかかわる制度を補っていくという。そうした中で、本当に役立つ人事制度を残していくにはどうしたらよいのだろうか。

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