伸ばせば3メートル以上! ジャバラ地図『全国鉄道旅行』の存在意義杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/6 ページ)

» 2017年05月26日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

デフォルメ地図ならではのこだわり

 日本全国の鉄道路線を1枚に収める。それは伝統であり、編集者のこだわりだ。『全国鉄道旅行』は3メートル20センチ。実は1枚の紙ではなく、3枚の地図を貼り合わせて作っている。印刷機と折り機の能力にも限界があるためだ。貼り合わせは手作業とのこと。正確に線を合わせているため、眺めているだけでは気付きにくい。私は黒く塗りつぶすときにペン先が引っ掛かって初めて気付いた。この工程があるため、他の地図帳と比べて、印刷開始から発売日までは余分の日数を必要とするという。

photo かつてはジャバラの途中に都市拡大図が挟まれていた。正確に折り目を合わせないとできない技だ。もしかしたら手折りかもしれない

 鉄道路線の新設や廃止は3月が多い。それを反映した経年版の発売は4月の大型連休前を目標としている。経年版の準備は1月中旬に始めるという。未確定要素も多いため、確定情報を粘り強く待ち、4月上旬に編集作業を終わらせて印刷にかかる。ギリギリまで情報を反映させたい編集部と、締め切りを厳守したい印刷所とのせめぎ合い。どこの編集部でもある話だが、「早めに入稿してくれないと折れない、のりが乾かない!」と、ジャバラ式地図ならではやりとりがある。

 路線の追加方法もこだわる。今年3月に延伸した可部線を見ると、線の傾きが駅間ごとに違う。かつて三段峡まで通じていた可部線が廃止され、延伸区間はその線路をなぞっている。それを再現したという。地下鉄や私鉄など、路線が延伸した場合は「将来、さらに延伸するかもしれない」などと考えながら線を引く。

 裏面の地下鉄路線図では、2015年に開業した仙台市営地下鉄東西線の記載方法について、編集部内で議論があったという。当初、仙台市営地下鉄は南北線だけだった。掲載枠も縦長だ。このままでは東西線を真横に描けない。しかし、枠を広げると他の都市の地下鉄路線図まで変更する必要がある。今回は枠の大きさは変えず、東西線を逆U字型に描いた。

 札幌市電のループ化新設区間は斜めになっている。札幌市営地下鉄の駅との距離感を配慮したためだ。単純に線を加えるだけではなく、付近の路線や駅との距離感を反映させたい。そこにデフォルメ地図ならではのこだわりがある。『全国鉄道旅行』の前身『全国旅行』では、05年の「つくばエクスプレス」開業を盛り込んだ。長距離路線だけに苦心したという。

photo 最新版(下)は奥津軽いまべつ駅の位置が修正された

 経年版では、その距離感の見直しも行われている。例えば北海道新幹線だ。新規開業時に違和感なく描き入れたと満足したが、北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅と津軽線の津軽二股駅は隣接と言っていいほど近接していると知り、最新版では描き変えた。「誰も気付かないかもしれないけど、やってやったぜ」と祝杯を挙げたい気分だったそうだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.