ハンドルの自動化について考え直そう池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2017年06月26日 06時35分 公開
[池田直渡ITmedia]

 もう1つ注目してほしいポイントがある。BとCにはそれぞれ1と2があるが、1は速度制御、2は進路制御にかかわる支援となっている。速度に関しては危険があれば落とすのがセオリーであり、急減速させた場合には後方からの追突というリスクはあるものの、最適解はそれほど複雑ではない。

ボルボによる運転支援のイメージ図 ボルボによる運転支援のイメージ図

 しかし、進路についてはもっとはるかに複雑で、最適解が難しい。極端な例で言えば、トロッコのジレンマのような問題が発生する。制御不能になって暴走したトロッコの先に5人の作業員がいるとする。トロッコがこのまま進めば5人が死ぬ。あなたがポイントを操作すれば支線の線路へ導けるが、その先には1人の作業員が保線作業を行っている。あなたは手をこまねいて5人が死ぬのを見ているのか、それとも、あなたの操作によって1人が死ぬことを許容するかを選択しなくてはならない。

 実はこれにはさらに複雑な派生問題があるので、興味のある方は「トロッコ問題」で検索してほしい。進路制御を行うにはこれに回答を出し、プログラムしなくてはならない。例えば、お金を出してクルマを買ったユーザーを犠牲にすることで、死亡者数を減らせるといった状況にどんな回答が出せるのかと考えると簡単な話ではない。現在の車載センサーではこれほど広域かつ多くの情報が入手できないので、問題は複雑化しないかもしれないが、将来的に車車間通信によって、より広域の情報が入手できるようになれば、トロッコのジレンマは絵空事ではなくなるだろう。

 今度はドライバーのメンタルの問題についても考えてみたい。しつこいようだが、現在の運転支援システムでは、ドライバーに安全運転義務がある。システム任せにして事故が起きることは許されない。となれば、ドライバーは常に注意深く前方の監視を行わなければならない。

 さて、ドライバーが高い覚醒レベル、あるいは、高い注意力を持った状態でいるために、運転に何もコミットしないということは難しい。例えば、あなたが「ベッドに横になって目を閉じ、身動きしないでください」と言われて、そのまま数時間の間眠らないことができるだろうか? それは相当に難しいことだと思われる。

 運転中、アクセルもブレーキもハンドルも操作せずに、高い集中力で監視を行えというのは無理である。だから運転操作からドライバーの気持ちが離れないように、現在の自動ハンドルは、定期的にドライバーが操作しているかどうかをモニターしている。一定時間操作が加えられないと、「主体的に運転していない」と見なして警告し、場合によっては支援を止めてしまう。つまり自動車メーカー各社は、それによって「目をつぶって身動きするな」状態との差を作り出しているわけだ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.