夏の甲子園で起きた"キック疑惑"、騒動を大きくさせたのは誰か赤坂8丁目発 スポーツ246(2/4 ページ)

» 2017年08月25日 07時44分 公開
[臼北信行ITmedia]

責任は周囲のオトナたちにある

 もちろん、真相は分からない。しかし個人的な見解を言えば、渡部君はワザと蹴ったわけではなく全力プレーの中で起きてしまった行為であると信じている。ただこの騒動が思いのほかに大バッシングを浴び、尾を引く要因となったのは周囲のオトナたちに大きな責任があるような気がしてならない。

 劇的勝利となった当日の夜、渡部君のTwitterは全削除され、Instagramも非公開となった。これは騒動の拡大を懸念した野球部指導者からSNSの閉鎖を命じられての判断だったという。そして一夜明けた準々決勝・広陵戦の当日。その渡部君は今大会で初めてスタメンを外れた。

 試合前取材で多くのメディアに囲まれた本人は「監督から『大阪桐蔭に勝ったので本気で優勝を狙いにいける。(準々決勝も勝てば)準決、決勝と連戦になる』と言われた」とあくまでも休養によるベンチスタートと説明した。「出たい気持ちはあるが、監督を信じています」と口にしたが、その表情はどこか悔しげだった。

 大事な一発勝負となる準々決勝の試合で特にケガもしていないはずの正捕手が休養のため、ベンチスタート。確かに準決勝、決勝は連戦になるとはいえ、それはあくまでも目の前の試合に勝てばの話だ。そう考えるとやはり不自然である。前日の騒動発生にピリついた監督や野球部指導者が当事者をグラウンドに出すのはやめようと判断したのではないかと邪推されても仕方がない。

 いくら渡部君に疑惑が向けられていると言っても「疑惑」はあくまでも「疑惑」だ。ネット上でワーワーとディスられている段階で騒動発生の翌日の準々決勝でベンチスタートとなれば、逆に「やっぱり"クロ"だったから試合に出さないんじゃないのか」と思われてさらなる炎上の火種となることは容易に想像が付いたはずだ。実際に渡部君のSNS閉鎖とベンチスタートは一部のネットユーザーたちによる心ないバッシングの格好の材料となってしまった。

 もっと言えば、彼はここまでチームのために身を粉にして奮闘してきた。結果的にこの準々決勝で広陵に敗れ、高校生活最後の試合は不本意な形でベンチスタートを強いられて涙を飲むことになった。心ない誹謗(ひぼう)中傷の温床となる危険性のあったSNS閉鎖の判断はともかく、渡部君をベンチスタートにしたのは指導者たちの過剰反応だったような気がしてならない。

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