新潮社とヤフーは9月7日、2015年に三島由紀夫賞を受賞した作家・上田岳弘氏の新作「キュー」を、月刊文芸誌「新潮」とポータルサイト「Yahoo!JAPAN」で同時連載する取り組みを始めた。年齢・性別を問わず巨大なユーザー基盤を持つYahoo!JAPAN経由で人気作家の作品を発信することで、文学に興味がなかった層との接点を拡大し、不況に苦しむ日本の出版業界を盛り上げる狙いがある。
上田氏の新作は、同日発売の新潮10月号から毎号1章ずつ掲載する。Yahoo!JAPANのスマートフォン版にも特設コーナーを設け、各章を8パートに分割したものを同日から毎週火曜日・木曜日に掲載する。Web上での閲覧料金は無料。
新潮の矢野優編集長は「新潮は1904年(明治37年)創刊の伝統ある文芸誌だが、発行部数はそれほど多くない。Web版を無料にすることで雑誌が読まれなくなるリスクも確かにあるが、より多くの人に作品を届けることを最優先に考えた」と背景を話す。
上田岳弘氏は「“キュー”という語感が好きで、デビュー前からこの言葉をタイトルにした長編を書きたいと考えていた。物語では、“9”という数字がしばしば登場する。第1章では“憲法9条”のモチーフが登場する」とヒントを話す。
Yahoo!JAPANの連載ページは「新しい読書体験」をコンセプトとし、挿絵が動き出す仕掛けなどを設けた。挿絵ページをタップすると作品の一節が浮かび上がるほか、読者が触れた画面上の位置によってデザインが変化するという。
書籍で親しまれている縦書きの文字組や、一般的なWebページと同様に縦スクロールでページをめくる仕組みも採用しており、読者はストレスなく閲覧できるという。
ヤフーの岡田聡チーフエディターは「情報がすごいスピードで生産・消費されている現在のWebメディアでは、短い文章が好まれ、長文は読まれづらい傾向にある」と指摘する。「小説の連載を通して読者層や継続率などのデータを取得し、長文が読まれるポイントを把握したい」と話す。
同時連載は18年5月に終了予定。その後は新潮社が単行本として編集し、ヤフーがプロモーションに協力する形で販路を拡大していくという。
岡田チーフエディターは「時期は未定だが、この仕組みをプラットフォーム化し、他の出版社に提供することも検討中」と話している。
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