体臭ビジネスが盛り上がると日本人がおかしくなるのは本当かスピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2017年09月26日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

児童虐待相談件数が増えた時期

 日本の児童虐待の相談件数は1996年度あたりから緩やかに上昇して、99年度に1万件を突破。以降ずっと右肩あがりで増え続けて、最新の2016年度の児童虐待相談対応件数は12万2578件(速報値)と過去最多となっている。この上昇の起点である1990年代後半というのがポイントだ。

 98年、P&Gが「ファブリーズ」を世に出している。当時の日本には除菌消臭というジャンルはなく、瞬く間にこの新ジャンルは世に浸透していった。

 その翌年には、資生堂と高砂香料工業が、中高年の体臭の原因物質「ノネナール」というものを突き詰めて、資生堂のマーケティング戦略として、そのニオイの概念を世の中へと普及させていく。そう、「加齢臭」である。

 2017年の今も市場をけん引する「体臭消しビジネス」のトップスターたちが生まれ、世の中へ圧倒的なスピードで普及していくのとまるで足並みをそろえるように、児童虐待の相談件数が増えていく。

 それはまるで、衣服についたニオイや体臭への過度な嫌悪感が日本人の「嗅覚」を狂わせ、それが生き物としても「異常」な行動に走らせているように見えないか。

 なぜ日本の若者は性や恋に消極的なのか。なぜ日本の夫婦はセックスに積極的ではないのか。そして、子どもがこれだけ少なくなってきているというのに、なぜ親たちはわが子をいびり倒すのか。

 これらの理由については、さまざまな専門家がさまざまな主張をしているが、少し見方を変えれば、われわれが「嗅覚を奪われたサル」になったことで「異常行動」をとっているようにも思えないだろうか。

 ちなみに、なぜこのように1990年代末に「体臭ビジネス」が盛り上がったのかというと、90年代というのは「口臭ビジネス」が飽和状態になったからだ。

 90年代前半、井森美幸さんの「お口くちゅくちゅモンダミン」というフレーズがCMで繰り返され、口臭ケアは現代人の新常識となった。95年になると、口臭チェッカーという「見える化」も行われ、排せつ物やおならが無臭になるという「エチケット・ビュー」というタブレットが品切れになるほど人気を博した。

 もうお分かりだろう、「口臭消し市場」の次に、メーカー各社が新たな金脈として掘り当てたのが「体臭消し市場」だったのだ。

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