裏切らないスイフト・スポーツ池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年10月16日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 もう1点はステアリングだ。一般的にクルマはハンドルを切ると中立位置に戻ろうとするセルフアライニングトルクが発生する。最近の電動パワステでは、それをパワステのモーターが「盛る」傾向が強い。スイフト・スポーツもご多分に漏れずそうなっていた。それなりの舵角が入るコーナーリングでは高い反力がそれっぽい演出になっているが、直進時の微舵角操作でもモーターが頑張って盛ってしまう。サスペンションジオメトリーの素養としてはもっと小さな力で進路の修正ができるのに、いちいちモーターの反力と戦わなきゃならないのは理不尽だ。普段使いで疲れる。

 直進安定性は高くない。割とチョロチョロするが、舵が効かずにフラフラするのではなく、舵が敏感で進路が変わりやすい印象だ。多少集中力を要するが、ドライバーがちゃんと的確な微舵修正を加えてやれば何とかなる。ただしモーターの反力とずっと戦わねばならない。要するに、気楽にドーンと真っ直ぐ走れる直進安定性よりコーナーを回り込む機動性を重視した結果である。ホットハッチの本分は直線番長ではないので、このリソース配分は良しとする。

 もう1つはステアリングシャフトを伝ってくる微振動だ。これは難しいところで、ステアリング系、特にステアリングラックのマウントを柔らかく大容量のものに変えればすぐに直る。ただそうするとトレードオフとしてステアリングのダイレクト感が失われる。だから小堀氏に尋ねた。「これが限界ですか?」。小堀氏は「これ以上やるとダイレクト感が……」と答えてくれた。ならばこれで良い。振動が少ないに越したことはないが、そのためにダイレクト感がなくなったりしたらスイフト・スポーツとしては「角を矯めて牛を殺す」話になってしまう。クルマ全体として二兎を追わず、大事なものに集中する姿勢がハッキリしている。

赤を使いすぎ。侘びを表す名言として「藁屋に名馬つなぎたがるがよし」と言うが、ここぞという1カ所でいいのではないか 赤を使いすぎ。侘びを表す名言として「藁屋に名馬つなぎたがるがよし」と言うが、ここぞという1カ所でいいのではないか

 内装はレーシーなイメージと言えば聞こえが良いが、あっちこっちに赤トリムが入っている。元々の造形が大人っぽいデザインではない上に、この赤が乗っかる。頑張って赤の彩度を落として落ち着かせようとしているが、昔取った杵柄でおっさんが乗ろうと思うと気恥ずかしい。可能なら追加費用を取ってでも黒一色の地味地味なトリムオプションがあるとおっさんドライバーたちが大量に釣れるような気がする。

 細かいあら探しをしつつも、もういい加減、筆者の本心は伝わったと思う。スイフト・スポーツはホントに楽しい。スイフトにはコンパクトカーの未来を指し示す上質で穏やかなスイフト・ハイブリッド(ストロングハイブリッド)があり、古典的な楽しさを伝承するスイフトスポーツがある。どちらも筋が通っており、ブレがない。そしてどちらに乗っても小堀主査の笑顔がその向こう側に見える。スイフト全モデルに試乗して小堀主査がスポーツドライブ好きであることはよく分かった。良いクルマは然るべきカーガイがいてこそ出来上がるのだと改めて思った。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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