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» 2017年10月17日 08時08分 公開

スピン経済の歩き方:女性記者の過労死問題で、なぜNHKはウソをついたのか (3/6)

[窪田順生,ITmedia]

マスコミが時代の変化に対応できない背景

 これまではそういう記者たちが悲鳴を上げそうになると、「オレたちの若いころはもっと大変だったぞ」「ジャーナリストという職業を選んだ以上、それくらい我慢しろ」と組織内の「おじさん」たちから旧態依然としたパワハラを受けて口をつむぐしかなかった。

 なぜかというと、この世界は職人の世界と一緒で、先端技術やイノベーションと縁遠い「徒弟制度」と「分業制度」が残る世界だからだ。人からうまく話を聞き出す。価値の高い情報をとってくる。このような「取材者」としてのテクニックは決してマニュアル化できないし、研修やらで体得できるものではない。

 じゃあどうするかというと、「弟子入り」だ。半人前のうちは取材チームの一員として徹底的にこきつかわれ、徹夜仕事ができなくなった「おじさん」たちの目となり耳となって経験を積む。そのなかでOJTで記者としてのスキルや人脈を継承していくのだ。こういう極めて属人的な仕事を強いられる若者たちは、時間外労働150時間以上を強いられても、「ブラック企業」だと騒げない。休日に呼び出されてお説教されても「それってパワハラですよ」なんてことは口が裂けても言えない。

 しかし今回、佐戸さんという「犠牲者」がここまで注目を浴びたことで、黙って従うしかなかった若者たちが「このままだと殺される」と声をあげるようになるかもしれないのだ。

 筆者はこの7月に『次に、炎上するブラック企業は「マスコミ」だ』という記事を書いている。内容としては、当時、過酷な労働を強いられていると話題になっていた宅配ドライバーと、マスコミ記者が驚くほど似ており、遅かれ早かれ「宅配クライシス」と同様の問題が、マスコミにも発生することを予測したものだ。

 日本の宅配サービスの正確さ、スピード、きめの細かさが実現できていたのは、1億2000万人という巨大な人口に裏打ちされた宅配ドライバーの数と市場によるところが大きい。

 しかし、時代は変わる。労働人口は減って、代わりにネット通販が爆発的に増えれば、「昭和の宅配ビジネスモデル」があっという間に通用しなくなるのは自明の理である。だが、日本型組織はこういう変化に瞬時に対応することができない。そこでどうするかというと、「昔はよかった」と遠くを見つめて構造改革に着手しない経営者の代わりに、「現場」が犠牲になる。

 ネット通販のすさまじい物流量の侵攻を、宅配ドライバーという「個人のがんばり」で食い止めようとする。基本的な考え方は、太平洋戦争時、本土侵攻を防ぐために「神風特攻」を強いた日本軍とほぼ変わらない。

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