あくまで想像の域を脱しないが、普通に考えたら理由はこれしかない。世の中の「ブラック企業批判」のムードが落ち着くのを待っていた可能性である。
佐戸さんが亡くなったときは先ほど触れたように、NHKで番組がつくられるくらい「ブラック企業」が大きな社会問題となっていたので、労災認定を受けた14年5月も、依然としてワタミやユニクロがブラック企業として叩かれていた時代であり、ここでの公表は自殺行為だ。そんな調子で機をうかがっていたが、15年にはアリさんマークの引越社が注目を浴び、16年には電通、今年の前半はヤマト運輸の宅配ドライバーなど、「ブラック企業」への厳しい風当たりが続いたことで、公表することに腰が引けていたのではないか。とはいえ、このまま揉み消すことはさすがに許されない。
そこで北朝鮮のミサイルがバンバン打たれはじめて、ブラック企業にまつわる報道機会が減った今年9月のタイミングで公表に踏み切った、のではないのか。
実際にNHKは「労災認定後におわびした」と述べているが、ご両親は「謝罪は今年9月までなかった」と述べている。ブラック企業への風当たりが強い時期には頭を下げず、世論が他の問題に気に取られた途端に謝罪を行う。この不可解な対応からは「保身」の匂いがプンプンするのだ。
もちろん、これはすべて筆者の想像に過ぎないので、戯言だと聞き流していただいてもいい。ただ、NHKがどれほど彼女の死を小さく扱って「鎮火」したいと考えていても、それは「不可能」だというのは自信をもって断言できる。
今回、佐戸さんがお亡くなりになったのは、彼女が人一倍「がんばり屋」の性格だったからとか、担当していた都議会で選挙があっからとかいう類の話ではない。
ひとことでいうと、マスコミ業界が時代の変化に対応できずにいることで、そのしわ寄せがすべて取材現場にもたらされているという構造的な問題の「犠牲」になったのである。
だから、こうしているいまも佐戸さんと同じように追い詰められている記者がいる。同じように命にさらされている記者もいる。
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