仕掛け人に聞く、YKK APの「未来窓」はなぜ生まれたのか?【前編】

屋内の空気環境に合わせて色が変化したり、遠く離れた家族や友人などと会話できたりする。これが窓の機能だと言ったら、想像がつくだろうか? 建材メーカー大手のYKK APが発表した、未来の窓のコンセプトモデルが、業界の垣根を超えて評判を呼んでいる。この商品の仕掛け人である同社 経営企画室 事業開発部長の東克紀氏がその思いを語った。

» 2017年11月20日 10時00分 公開
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「未来窓」が提示するこれからの窓のカタチ

 光や風を取り込むための窓は、建物の快適さを大きく左右する。それだけに、窓は古くから存在し、時代に合わせてその構造や素材は進化を遂げてきた。

 そんな窓の新たな可能性を予感させる試作品が今、大きな話題を集めている。建材メーカー大手のYKK APが発表した未来窓「Window with Intelligence」である。

YKK APが発表した未来窓のプロトタイプ「Window with Intelligence」 YKK APが発表した未来窓のプロトタイプ「Window with Intelligence」

 Window with IntelligenceはYKK APが2016年4月から取り組む、未来の窓を形にする「未来窓」プロジェクトのプロトタイプ第2弾。どのようなものか簡単に説明すると、透明有機ELディスプレイやタッチセンサーを窓に組み込むことで、窓をスマートフォンやタブレット感覚で利用できるようにしたものである。現時点で家電の制御や、天候に応じた窓の自動開閉、屋内の空気環境に合わせて窓の色が変化したりするなど、いくつもの機能を備える。さらに、メモを残せるキャンバスになったり、遠隔地にいる家族や友人などと窓を通じてリアルタイムで会話できたりとコミュニケーションツールとしても活用できるのだ。

 もっとも、誤解を恐れずに言えば、Window with Intelligenceは「どこかで見た」ような製品だ。タブレットなどによる同様のデモを見掛けた人も多いはずである。「当初はプロジェクトメンバーの多くも、すでに大型タッチディスプレイが存在する中で、Window with Intelligenceの市場価値に疑問を感じていたようです」と苦笑いするのはYKK APの経営企画室事業開発部長で、発足当初から未来窓プロジェクトのリーダーを務める東克紀氏だ。

窓がデジタル機器に取って代わる?

 YKK APでは従来、断熱性や気密性、遮音性、防犯性など、窓本来の機能向上に注力することで長らく実績を上げてきた。その延長上にデジタル活用という発想は浮かびにくく、メンバーの戸惑いも当然のことと言えるだろう。

 だが、メンバーの杞憂(きゆう)をよそに、東氏はWindow with Intelligenceの開発を力強く推し進めた。それは、従来からの窓のあり方に対する強い危機感があってのことである。

YKK AP 経営企画室事業開発部長の東克紀氏 YKK AP 経営企画室事業開発部長の東克紀氏

 「お客さまの健康、あるいは省エネなどと深く関わる点で、窓の機能性は重要です。ただし、その具体的な快適さがイメージしづらく、例えば、住居を購入する場合は、キッチンやお風呂などから優先的に検討が始まり、窓の優先度は低いのが実態です。窓を手掛ける当社にとって、自社製品の良さをより深く理解してもらうためにも、窓にもっと目を向けてもらわねばなりません。その策としてたどり着いたのが『未来窓』というアイデアだったのです」(東氏)

 窓は建物の内と外をつなぐコンタクトポイントであり、一日の生活の中でも必ずと言っていいほど目にするもの。そのような空間に存在する窓だからこそ、さまざまな新しいテクノロジーを組み合わせることで、もっと可能性が広がるのではないかと考え、プロジェクトを発足、プロトタイプを開発していったのである。

 ふたを開ければ評判は上々。今ではセンサーやソフトウェア、ネットワークなど、建築資材とは畑違いの企業からも担当者が東氏の元に訪れる。それも当然である。窓のデジタル化によって、確かに窓自体は高価になる。だが、逆に本来必要であったデジタル機器が一掃されるという、いわば逆転の発想によりもたらされる省スペース性の意義は、諸外国より屋内空間が限られた国内においてとりわけ大きい。加えて、すでに述べたように、スマホやタブレットのように誰もが難なく操作できるのでなじみやすい。将来的な可能性と裾野の広がりを考慮すれば、他社も決して無視できないだろう。そしてまた、分野の異なる企業とのコミュニケーションが未来窓のさらなる進化につながっているのだ。

停滞を打開する、信念に基づく“ショック療法”

 無論、ここに至るまでには紆余曲折もあった。YKK APに限らず建材メーカーは、機能向上を目的に既存商品の構造や素材を進化させることに主眼を置いており、どうしてもイノベーションが起きにくかった。そうなると社内も保守的になり、新しいアイデアややり方に対して抵抗感が強かった。

 同プロジェクトは、社内の各部署からメンバーが選抜されたが、当初は未来窓のコンセプトの斬新さに加え、部署ごとの考え方の違いもあり、開発が進まない時期もあった。「私はリーダーとして、窓として守るべき機能は継承しながら、新たな価値の付加を開発目標に掲げました。ただし、これまでの価値観とのギャップの大きさから、メンバーの考えがまとまらず、約半年間はほとんど進展がなかったのです」と東氏は振り返る。

 一歩間違えばプロジェクトが頓挫しかねない状況だ。しかし、未来窓というこれまでにないアイデアの実現に向けてここで立ち止まるわけにはいかなかった。東氏はすぐさま頭を切り替える。このプロジェクトは必ずしも社内に閉じたメンバーだけで進める必要はないのだ。むしろ異業種の方が、このコンセプトに注目してくれる人や、実際に協力してくれる人がいるかもしれない。

 そこで東氏はプロジェクトを軌道に乗せるための起死回生の一手を打ったのである。外部のクリエイティブチームの活用によって、何と半年間で試作品の第1弾の完成、さらに発表にまでこぎ着けたのだ。そして、この“ショック療法”を機に、Window with Intelligenceの開発が本格始動することとなる。

 実際、Window with Intelligenceが外部で評価され始めると、社内の保守的な空気も徐々にほぐれていき、次の第2弾の企画も進めやすくなったという。

 傍目には強引とも思えるプロジェクトの進め方だったが、そこには東氏が同社に入社以来、一貫して貫いてきた信念があったからこそ。それは「お客様のためになる製品を作る」ということである。【後編はこちら

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