地域医療の「脱中央集権化」欧州では議論進む(4/7 ページ)

» 2017年12月07日 06時00分 公開
[三原岳ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

言葉の定義

 ここで1つのヒントとなるのが脱中央集権化(decentralization)を巡る議論である。

 ヨーロッパの医療制度に関する資料を見ると、この言葉が頻繁に登場する。一例として、欧州各国のヘルスケア政策を紹介する「European Observatory on Health Systems and Policies」というWebサイト(※8)では、医療制度のパフォーマンスを評価する際の指標として「脱中央主権化」が盛り込まれており、ランスティングと呼ばれる広域自治体(日本の都道府県に対応)に医療政策の権限を移譲したスウェーデンなどの取り組みが紹介されている。

 しかし、脱中央集権化の定義は多岐にわたる。脱中央集権化という言葉は(1)同じ政府組織内で現場に責任を委ねる deconcentration(分散化)、(2)異なる行政機関に責任を委ねる devolution(移譲)、(3)民間向け規制を緩和する deregulation(規制撤廃)、(4)民間にサービス提供を委ねる privatization(民営化)――に類型化されている(※9)。

 さらに、権限、財源、説明責任などに分ける議論があるため、すべてが日本に該当するとは限らない上、医療制度の設計には歴史的な経緯や国民の意識が絡むため、海外の事例をダイレクトに「輸入」してもうまくいくとは思えない。

脱中央集権化のメリット

 だが、脱中央集権化を巡る論議で期待されていることは地域医療構想の推進に役立つ側面がある。

 一例として、脱集権化の目的を「政府の機能をより住民に近付け、コミュニティーレベルの参加を促進すること」とした上で、(1)合理的で統合されたヘルスケアサービスの提供が可能になる、(2)コミュニティーの構成員が自らの健康管理に参加できるようになり、健康ニーズや地域の健康課題に対応した健康計画が可能になる、(3)政府や非政府組織、民間組織の活動が密接に統合できるようになる、(4)地域の行政課題に関する中央の統制が排除され、健康に関する事業の立案が可能になる、(5)地方自治体の活動について、ヘルスケアとは別の関係者とセクションを超えた協力が可能になる――といった点が挙げられている(※10)。

 別の文献では脱中央集権化のメリットとして、(1)スタッフが住民と近い関係を持ち、地域の組織による支援調整に関わることを通じて、士気は上がる、(2)住民参加を担保した意思決定が住民の意識を高め、政治的な課題に対する知識や行動を拡大する手段になる、(3)政策決定プロセスに関する最適な資源分配をもたらす――などを挙げつつ、「住民と現場の専門職が加わることで、政策決定プロセスは新たな気付きを生み出したり、現場職員の意識を高めたりすることにつながり、説明責任と応答性が高まることを期待できる」と指摘している(※11)。

 つまり、脱中央集権化を通じて、地域の特性に応じたコンパクトな制度を整備できるようになるため、そのメリットとしてケアの統合やヘルスケア領域以外の部門を超えた連携、住民など幅広い関係者の参加が可能になる点が挙がっている。

 以下、(1)ケアの統合、(2)ヘルスケア領域を超えた部門間の連携、(3)住民を含めた幅広い関係者の参加――に議論を絞って、地域医療構想への応用を試みる。

※8 Webサイトはこちらの通り。

※9 脱中央集権化の定義はKrishna Regmi et al.(2014)“Decentralizing Health Services”Springer, Rondinelli A.Denniset al.(1983)“Decentralization in Developing Countries”World Bank Staff Working Papers No.581などを参照。

※10 Anne Mills(1990)”Health System Decentralization”World Bank,p28,142。

※11 Richard B. Saltman et al(2007)“Decentralization in Health Care Systems”pp66-67。

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