地域医療の「脱中央集権化」欧州では議論進む(5/7 ページ)

» 2017年12月07日 06時00分 公開
[三原岳ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

ケアの統合

 まず、(1)のケアの統合である。在宅ケアでは医療・介護連携を含めて、患者の生活を切れ目なく支える提供体制が必要であり、その論点や関係者は医療に限らない。地域医療構想の推進に際して、都道府県は医療部局と介護・福祉部局の連携を密にするのはもちろん、地元医師会や医療機関関係者との連携・協力が欠かせない。

 冒頭で触れた通り、日本の提供体制は民間主体であり、都道府県に強制力はほとんどない。地域医療構想に定められた病床数についても、将来像を示しているとはいえ、これを絶対の数値目標と位置付けることはできない。むしろ、必要病床数は厚生労働省令に基づく1つの試算に過ぎないとの認識に立ち、合意形成に力点を置く方が望ましい。

 さらに、切れ目のない提供体制の構築を図る上では医療関係者だけでなく、介護・福祉関係者との連携が重要になるほか、介護保険の財政運営や福祉行政を担う市町村との関係強化も課題である。つまり、都道府県が地域医療構想を策定しただけでは何の実効性も伴わない上、住民の生活にとっては医療だけで完結しても意味も持たないことを認識する必要がある。

ヘルスケア領域を超えた部門間の連携

 次に、(2)のヘルスケア領域を超えた部門の連携である。その一例として、住宅行政を考えよう。

 住宅行政と医療・介護行政の連携を国レベルで強化しようとした場合、前者は国土交通省、後者は厚生労働省が所管しており、連携には限界がある(※12)。

 しかし、地域医療構想で言う在宅医療には自宅での医療提供に加えて、介護施設や高齢者住宅も対象としており、病床削減が進んだ場合、高齢者住宅は1つの受け皿となる。もし都道府県や市町村が住宅行政とのリンクを想定しなければ、受け皿の選択肢が減ることになる。

 さらに、地域特性も考慮する必要がある。訪問診療や訪問介護の場合、医療機関から自宅までの移動時間が長くなると、採算が悪化することになる。そこで人口密度が希薄な過疎地や山間地、冬場の移動が困難な豪雪地帯の場合、専門職が利用者の自宅と事業所を往来する都会型の在宅ケアは現実的と言えないため、高齢者住宅などの受け皿整備を考える必要が出てくる。

 実際、北海道の地域医療構想は住まいに着目しており、国民健康保険病院の3階部分を改修してサービス付き高齢者向け住宅に転用した奈井江町などの取り組みを紹介しつつ、集住の選択肢を含めた居住環境を確保する重要性を強調した。こうした形で国の縦割りを超えて他分野と連携できるのは現場に近い自治体の強みである。

※12 それでも近年は連携の強化が図られており、面積など一定の要件を満たしつつ安否確認や生活相談などを提供する「サービス付き高齢者向け住宅」は国土交通省、厚生労働省の共管となっている。さらに、両省の情報共有や協議を図る場として、関係職員で構成する「福祉・住宅行政の連携強化のための連絡協議会」が16年12月に設置されている。

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