「メルチャリ」が生まれたワケ 「共同運営型」なぜ?自転車シェアのメルカリ流

» 2018年02月14日 16時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 メルカリのシェアサイクル事業「メルチャリ」がベールを脱いだ。2月27日から福岡市でサービスを開始し、順次エリアの拡大を目指す。ポイントはユーザーが駐輪スペースの提供や放置自転車の再配置などを行う「共同運営型」モデルを採用していること。中国や米国で主流のモデルとは異なる新しいビジネスモデルだ。

 メルカリ初のオフラインビジネスはどのようにして生まれたのか。どのような背景で「共同運営型」を選ぶことになったのか。メルカリの子会社ソウゾウの松本龍祐代表取締役とプロダクト責任者の井上雅意氏に聞いた。

左:ソウゾウの松本龍祐代表取締役、右:プロダクト責任者の井上雅意氏。「メルチャリ」をけん引する2人にインタビュー

「日本では中国と同じモデルは難しい」

――メルカリがシェアサイクル事業に参入することは大きな話題になりました。シェアサイクルビジネスはどのようなきっかけから生まれたのでしょうか?

松本: もともと僕と井上が、中国を含めたアジア数カ国を訪れ、インタビューして周るということがあったんです。その中でたくさんの事業アイデアが生まれ、いくつか挙がった中で「モビリティー(移動)」というアイデアに注目しました。

――なぜモビリティーに着目したのでしょうか。

松本: スタートになっているのは、「毎日メルカリを使っていただきたい」という思いです。ですが、モノの売り買いは毎日はやりません。では、毎日やるものとは何か。それは「移動」です。といっても、多くの人はタクシーには毎日乗りませんよね。日本の方に一番身近なモビリティーを考えた時に、自転車が挙がりました。

――今回、メルチャリではユーザーが運営に参加する「共同運営型」という新しいモデルを採用しました。視察した中国などで成長しているモデルとはまた違いますね。

井上: もともと、中国でやっているモデルをそのまま日本でやるのは難しいと思っていました。中国と日本では、まず道路事情が違います。中国では日本と違い、自転車をどこにでも置ける。だからこそ、自転車を大量投入していつでもどこでも使えるというモデルが成立しますし、それゆえに放置自転車が社会問題になっています。

 日本で展開するためには、中国とは違うモデルを考える必要があります。日本ではルール的にも景観的にも自転車をどこにでも置けませんから、しっかり置ける場所、駐輪ポートを確保していくのが課題です。そこをクリアできて初めて日本でのシェアサイクルは実現すると考えました。

――発表会でも、「日本のシェアサイクルではドッグレスモデル(中国や米国では主流の街中のさまざまな場所に自転車を配置するモデル)は難しい」と言っていました。

井上: そうですね。ただ、ドッグレスモデルの難しさは、「誰もが自分の自転車を持って、自分の駐輪場に置いている」からできないところが大きいと思っています。シェアサイクルが当たり前になった社会では、今とは違う形になるのかなと。

松本: 地域の方々や行政のみなさんと一緒に、世界を作っていかないといけないとは思います。ただ、まずは現在の社会で使ってもらえるサービスである必要がありました。

メルチャリの自転車。GPSが搭載されており、位置情報をトラッキングできる

「メルカリのカルチャー」――性善説から生まれた「共同運営型」

――LINEも中国Mobikeと提携し、18年中にシェアサイクル事業へ参入すると発表しています。LINEのように他企業との提携は検討していなかったのでしょうか?

井上: 検討自体はしていました。ただ、メルチャリは日本独自のかなりチャレンジングなモデルです。メルカリにとっても、オンラインではなく初めてのオフライン事業、しかもハードウェア事業と、挑戦をしています。ですから「他企業とは組まず、ソウゾウの中でまずはやっていこう」となりました。

――駐輪ポートの提供や自転車の移動をユーザーが行う代わりに、ポイントやグッズなどのインセンティブがもらえるシステムは、「その手があったか!」と驚きました。どうやってそのモデルが生まれたのでしょうか?

井上: どうやって……というと説明が難しいのですが(笑)、メルチャリを展開する上でのメルカリの強みは、国内6000万ダウンロードのユーザー基盤です。さらに、メルカリのユーザーは、「シェアすること」自体や、モノを循環させることに対する需要度が高い傾向があります。メルチャリのユーザーもメルカリのユーザー層がまずはメインになってくると思いますので、「ユーザーが自然と運営に参加していく形はあり得るのではないか」と考えていきました。

松本: メルカリのカルチャーとして「性善説を信じる」というものがあります。スマホアプリの通報システムもそうですが、社内も同じです。そのカルチャーから「共同運営型」が生まれたのかもしれません。

 新しいモデルなので、やってみてうまくいかない部分もあるかと思います。初めからユーザーにお願いするのではなく、GPSでトラッキングして自転車の場所を把握し、西鉄運輸と提携しての回収やメルカリオフィスでのサポートなどでサービスのクオリティーを担保しています。このモデルがビジネスとして成立するかどうかは、どれだけユーザーが協力的になって使ってくれるかにかかっていますね。

――個人や個人商店の空きスペースを駐輪ポートとして募っていますが、どれくらいの応募があると想定しているのでしょうか。

井上: 新しい取り組みなので、応募者に関する数字は読めないですね。2月27日時点では、法人企業と協力して駐輪ポートを用意します。ユーザーからもかなりの応募をいただけるようであれば、実際にユーザーのスペースをポートとして運営することも早くできるようになると思います。

――18年中に、メルカリとLINEのシェアサイクル事業がスタートします。さらに、もともと自治体が取り組んでいるサービスも伸びています。将来的にユーザーの取り合いになるような未来を考えていますか?

松本: 将来的にはシェアの取り合いになることも考えています。ですが、現時点ではまだ日本にシェアサイクルビジネスは存在していません。自治体のシェアサイクル事業は「地域の課題を解決する」という行政からのアプローチですが、民からのアプローチでも解決できればと思っています。何社か参入して、各社がそれぞれのやり方で日本独自のシェアサイクルを模索していくのは、健全な姿なのではないでしょうか。まだシェアサイクルそのものの認知を上げていく段階。まずは一緒に広げていこうという考えです。



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