アマゾンのこうした動きによって、これまでの米国小売業が苦戦するといった報道があったので、既存勢力がさらに追い詰められていくといった印象は強くなったことだろう。米国ではアマゾン恐怖指数(デス・バイ・アマゾン≒アマゾンによって業績が悪化する懸念のある小売関連企業の株価指数)なる株価指数があり、アマゾンの株価の躍進と比して、さえない推移が投資家の評価の差を表しているとされている。
2017年、アマゾンは米国有力食品小売業のホールフーズを傘下に入れ、食品小売のリアル店舗に本格的に取り組む姿勢を明確にした。このとき、アマゾン恐怖指数銘柄の時価総額は320億ドル下落するという結果となった。アマゾンが本格的にリアルの世界にも踏み込んでくるというニュースが、「恐怖」を増幅させたのであろう。
アマゾンは、今後もリアル店舗の食品スーパーやコンビニをさらに拡大していくだろう。ただ、アマゾンのリアル店舗が、近いうちに、すべての既存小売業を滅亡させるかと言えば、決してそんなことはない。それは、なぜECを軸に事業を展開してきたアマゾンが、わざわざ非効率なリアル店舗を展開するのか、という素朴な疑問を持てば自ずと分かる。
アマゾンのECは、書籍から始まって、あらゆる商材に関するリーダーシップを次々と、既存リアル店舗から奪ってきたが、コンビニや生鮮食品のジャンルに関しては、アマゾンはその戦略を変え、リアル店舗を使って攻略しようとしたのである。逆に言えば、コンビニや生鮮の世界はECが最適ではないと、ECの覇者自身が認めている、ということなのだ。
国内EC市場の統計については、電子商取引実態調査(経済産業省)というものが毎年公表されている。この統計によれば、16年の国内消費者向けEC市場は15.1兆円(前年比9.9%増)にまで達していて、統計開始以来ずっと拡大を続けている。
統計を基に、商品、サービス分類別の市場規模とEC化率(市場全体に占めるECの割合 物販のみ)についてデータを抜粋した表を載せてみた。分類別の市場規模を見ると、旅行サービス、衣類・雑貨、食品・飲料、酒類などの市場規模が大きい。ただ、ECの存在感を示すEC化率を見ると、事務用品・文具、家電関連やコンテンツものについてECシフトが進行しているが、食品などでは2%程度と浸透率が低いことが明確に示されている。
食品は飲料、酒類などを含んだデータであり、生鮮品、惣菜などに関して言えば、これよりずっと低いことは想像がつく。商品、サービスの質が、ネット上とリアルとで差がない(と思われる)ものから、利便性の高いECにシフトが進んでいることが示されている。本来、サイズなどネット上での判断だけでは微妙な齟齬(そご)が生じるはずのアパレルなども、返品交換対応の充実でECシフトが進みつつある。単に商品を販売する場所という機能しか持っていない店舗は、ECに代替されるとよく言われるが、まさにその通りの状況が進行しているようだ。
ただ、そうであるならば、ECでは代替困難な価値も逆に見えてくる。今すぐ必要だったり、わずかな時間の経過で品質劣化の懸念があったり、そうした商品やサービスはECにはシフトが難しいのだ。その代表格はコンビニだ。
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