両備グループ「抗議のためのバス廃止届」は得策か?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/4 ページ)

» 2018年02月23日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

公共交通の救世主の怒り、同調の世論だが……

 両備グループは岡山県で電車・バス・タクシーなど公共交通事業などを展開する企業グループだ。傘下に岡山電気軌道、両備バスなど多数の交通関連企業がある。その交通事業を基盤に、不動産、流通など生活関連企業もある。岡山県、さらには中国地方を代表する巨大企業グループだ。17年末にはイトーヨーカドー岡山店の跡地にオフィス、商業ビルと高層マンションを擁する「杜の街づくりプロジェクト」を立ち上げた。

 両備グループとグループ代表の小嶋光信氏は、公共交通を真剣に考えて、実績を積んできた。03年以降、過当競争で混沌(こんとん)とした関係にあったライバルの中鉄バスと07年に和解し、公共交通の適正化の足掛かりとした。06年には経営状態が悪化していた中国バスを引き取り、広島県のバス事業を再編した。12年にはバス事業から撤退する井笠鉄道の路線を引き継いだ。赤字を理由に南海電鉄から切り離された貴志川線を引き受け「和歌山電鐵」として再生。ネコの「たま」を駅長とするなどで話題となった。

 こうした実績のもと、自社以外の公共交通問題についても助言を行っている。鉄道分野では三重県四日市市の旧近鉄内部線・八王子線について、近鉄がBRT(バス高速輸送システム)化を提案、四日市市が鉄道と近鉄の関与の継続にこだわっていたころに、「自治体も責任を持つべき」と助言した経緯がある。その後、内部線・八王子線は公設民営の「四日市あすなろう鉄道」として再出発した。

photo 小嶋光信著『日本一のローカル線をつくる たま駅長に学ぶ公共交通再生』。公共交通に関心がある人には必読の書だ

 小嶋氏の主張する「公設民営」は、「設備責任と経営責任を明確にして、民間の経営努力が生きる仕組み」である。第三セクターによる上下分離では責任の所在が曖昧になり、補助金による赤字の補填(ほてん)に終始し、黒字化に至らないという(公式サイトより)。ここまでの経緯は、小嶋氏の著書『日本一のローカル線をつくる たま駅長に学ぶ公共交通再生』でも紹介されている。私も同書を読み、小嶋氏の理念に感銘を受けた1人だ。

 公共交通問題に関心がある人のほとんどが、両備グループと小嶋氏を信奉していると思う。「抗議のための廃止届」についても、肯定的、同調する論調が多い。小嶋氏が主張するように、公共交通を許可制とし、利益、経済性優先に重きを置いた政策は納得しがたい部分もある。交通事業者は赤字路線から撤退しつづけ、全国各地で鉄道やバスの路線が消えていき、地域は活力を失い、再生のきっかけさえ奪われたかもしれない。

 しかし、私は小嶋氏の主張を理解する一方で「抗議のための廃止届」には賛同できない。小嶋氏の実績があるから、今回の「抗議のための廃止届」にも賛同するという風潮にも困惑する。異論を排する動きにつながりかねない。あの人はいつも正しい、という同調圧力を感じる。

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