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仮想通貨でアスリート育成? “資本の論理”に縛られない「ICO」の可能性とは「利益は上げなくていい」(2/3 ページ)

» 2018年02月28日 11時00分 公開
[鈴木亮平ITmedia]

ICOで選手の育成?

――具体的には、どのようなプロジェクトがICOに成功しているのでしょうか。

松田: 大きな金額を調達しているのは、仮想通貨の取引所を立ち上げる事業やICOの支援サービスを展開する事業など、仮想通貨に直接関係しているものが大半です。

 また仮想通貨の特性であるブロックチェーン技術を活用した事業もICOを成功させる上での重要な要素です。まだ事例は少ないのですが、例えば、ブロックチェーン技術を活用したソーシャルメディア「ALIS」。

 ALISでは、良質な記事を投稿した書き手と、良質な記事を見つけて「いいね」を押した(評価した)読者の両方に「ALISトークン」を報酬として支払う仕組みになっています。誰がどんな記事を投稿し、どのくらいALISトークンを得ているのか。これらをブロックチェーン上で管理(見える化)することで、読者は信頼できる記事をいち早く探すことが可能になります。また、書き手は従来のように執筆本数で稼ぐのではなく、記事が評価されることによって多くの報酬を得ることができます。

 運営側はALISのユーザーが増えることによって通貨の価値が向上すれば、その利益で事業を運営することができるので、広告に依存せず良い記事に対して適切な報酬を払うことが可能になります。

 PV至上主義から脱却した新たなメディアとして注目され、同プロジェクトは、2017年9月にICOを実施したところ、4分間で約1億円を調達しました。

 このようにブロックチェーンを活用しており、かつ、社会性の高い事業がICOに向いていると言えるでしょう。

photo ブロックチェーン技術を活用したソーシャルメディア「ALIS」

――まだ事例は少ないですが、今後どのような業界でICOの利用は進んでいくでしょうか。

松田: 個人的に面白いと思っているのは、アスリートの育成、発掘ですね。一流の環境で自分を鍛えるにはお金が必要です。スポーツの世界では特にそうです。しかし、潜在的な能力があっても資金不足で良い環境で練習ができなかったり、生活のためにプロの道を諦めてしまう人も少なくありません。支援してもらえるのは能力がある人の中でもごく一部です。

 アマチュアの選手たちが「自分コイン」を発行し、プロになったらその通貨が上場する(取引所などで売買ができる)ような仕組みにして、ファンなどから資金を調達することができれば可能性は広がります。

 現在も「VALU」という自分の価値をトレードするサービスがありますが、VALUの場合はそもそも知名度や発信力が高くなければ資金を集めることができません。

 しかし、例えば日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)や、日本野球機構(NPB)など運営組織が通貨の発行体になり、選手たちのプロフィール、試合履歴などをブロックチェーン上に載せて代わりにICOを行えば、選手個人に発信力がなくても周囲に認知させることができます。投資側は選手を応援する楽しみが増えますし、運営組織としても、ファンが増えることでよりスポーツ界を盛り上げることができるようになるので、大きなメリットがあります。

photo ICOで人の夢を応援できる世界がくる?

 芸能界でも同じことが言えます。例えば、芸能事務所が通貨の発行体になり、まだ売れていないけど、これから売れる可能性のある人たちのコインを発行します。ブロックチェーン上に、アイドルの卵や、芸能界を目指す人たちのプロフィールを載せて投票(通貨の購入)をさせれば良いわけです。市場から応援したい人を選んでもらうことで、芸能事務所がオーディションを開催しなくても良くなるかもしれません。

 今後、このような「人を応援する」ためのICOの事例が出てくると考えています。

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