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» 2018年03月09日 07時00分 公開

新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)

[杉山淳一,ITmedia]
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増額分55億円の試算は甘い

 こうした事情が分かったところで、2つの受け止め方があるだろう。1つは、「JR北海道の困窮状態を追い込むくらいなら、大東案でもやむなし」。もう1つは、「JR北海道という1企業の利益のために、新幹線駅の利便性が損なわれてもいいのか」だ。これはもう、ここまでお読みいただいた諸兄の判断に委ねたい。

 ただし、私からは、判断材料として、あと2つの問題点を指摘したい。

 1つは、「新幹線は誰のために走るか」という根本的なテーマだ。新幹線は道民のためにある。札幌市と函館市を結び、将来は旭川を結ぶ。この交流は北海道全体の利益につながる。それは国民の利益にもなる。札幌駅をわざわざ不便な形で作って、新幹線の利用が抑制されていいだろうか。

 もう1つ。JR北海道が大東案の費用増額分を負担するといった55億円の根拠が示されていない。JR北海道が提案した大東案について、新幹線ホームと在来線ホームを結ぶ乗り換え通路、跨線橋、コンコースを作るとある。実は、私が関係筋に取材したところ、この案に基づいて、鉄道・運輸機構が建設費を試算していた。総額で約117億円になったという。跨線橋部分だけで55億円かかる。この試算の参考は、東京・浜松町駅にある、山手線・京浜東北線ホームと浜離宮南側を結ぶ跨線橋だったそうだ。

 「ワンスパン(橋桁なし)で約70〜80メートルの人道橋を作るという構想です。橋りょう自体がとても大きくなり、運行路線の真上ですから架設の方法も難しい。これにつながる各ホームへの階段、エスカレーター、エレベーター新設も構造的に厳しい。土木技術者としては無謀な計画にしか見えません。浜松町の跨線橋をもう1つ架けるといったら、東海道新幹線を管轄するJR東海は絶対に認めないでしょう」(鉄道建設関係OB)

 「JR北海道は、工事費の増加はわずかとか、工事期間が認可案より1年短くなるとか、うそばかり並べて説明している。増加分はJR北海道が負担するといっても、工事費の根拠は全くなく、設計を慌てて行おうとして外注先を探したところ、引き受け手がなく困っていると聞いている」(同)

 安全面、コスト面でリスクが大きく、手を上げる建設会社がない。その他に、連絡橋を架ける場所には架線柱があり、これを移設する必要もあるという指摘や、これらの工事を在来線運行に影響なく実施できるかも不透明だ。「在来線運行に支障するから現駅案はイヤだ」というJR北海道の主張と矛盾する。もっとも、在来線運行の理由は本当はどうでもよくて、エキナカ、エキシタのテナント利益が本音だった。

 実際に大東案に決まり、いざ建設するという段階になって「55億円では済みませんでした」となったらどうなるか。決めた以上は作らなくてはいけないと、国に支援を要請するつもりだろうか。あるいは、また、札幌総合開発の株式を売って調達するか。それはJR北海道自身の首を絞める行為だ。

 安全面を指摘する声もある。新幹線ホームが大東案になったとしても、新幹線の複線の線路は在来線と並ぶ。在来線ホームを温存して新幹線の線路を作ると、新幹線の線路の両側に保線用の空間が取れない。この保線スペースは車両火災などで旅客の避難通路としても使う。その空間なしで新幹線の線路を敷いていいのか。

 それにしても、なぜJR北海道は「現駅案では企業として遺失利益が大きい」と素直に説明しないのか。利便性を考えれば現駅案がいいと承知しているからではないのか。では、遺失利益が何らかの形で補償されたら、現駅案でもいいのか。

 JR北海道は、数々の不祥事を経験し、安全への取り組みを強化していたはずだ。それが新幹線札幌駅だけ脇が甘くなっている。こんな見積もりで大丈夫なのか。

 新幹線札幌駅問題は今月中に決着させるという。関係各位には、ぜひ考えてもらいたい。「新幹線は誰のために走るのか」「札幌駅は誰のために存在するのか」を。

photo 鉄道・運輸機構が提出した大東案の検討事項リスト。この検討結果は次回の検討会議に提出される予定。建設に関する試算結果は約117億円という。タテに配置された跨線橋部分だけで55億円となり、JR北海道の見積もりを超える(出典:北海道新幹線建設促進北海道・札幌市調整会議資料

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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