北海道新幹線「札幌駅」地下案はダメ、ゼッタイ!杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)

» 2017年10月27日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 「杉山さん、それは違う。どこでも良いわけがない。地下はダメです」

 2031年に開業予定の北海道新幹線札幌延伸について、私が「いつまでももめていると市民の不信感を招く。地下駅だというなら、とっとと決めて先に進めてほしい。そういう、ハッキリ物を言うリーダーは北海道にいないのか」と、腹立ち紛れの意見を表明したところ、上記のようなメールが届いた。

 送り主の立場上、お名前は伏せるけれども、整備新幹線事業の計画に長く携わってこられた方だ。現在も日本の鉄道の未来を案じ、かつての仲間たちと研さんを積んでおられる。知恵の浅い私に、親切丁寧に歴史や技術を教えてくださる。鉄道業界の師匠である。地下駅案はなぜダメなのか。早速、師匠の元にはせ参じ、お話を伺った。

photo 北海道新幹線の札幌駅は地下駅になりそうだが……

新幹線が来るなんて、誰も信じていなかった

 国鉄時代に札幌駅を高架化したとき、地上の在来線用地が余った。この土地について、国鉄、鉄建公団、札幌市は、新幹線プラットホームと駅前広場を作ることで合意していた。札幌市は駅周辺の鉄道高架化のために土地を提供したため、公共の駅前広場を要求する権利があり、認められた形だ。この合意の元、新幹線駅用地と駅前広場部分が確保された。新幹線駅用地は現在の大丸札幌店、JRタワーがある場所だ。

 ここに新幹線のプラットホームを作れば、在来線プラットホームを削る必要もないし、地下駅にする必要もない。今さら言っても仕方ないけれど、そもそも大丸札幌店、JRタワーが建ったことが問題の始まりだ。なぜここにビルが建ったのか。

 「当時の札幌の人々は、新幹線が来るなんて誰も信じていなかった。東京から新幹線で博多に行く人は少ないでしょう。だから、札幌の人々も、東京に行くなら飛行機だと。新幹線が高速化したら東京まで4時間になるといっても信じてもらえなかった。鉄道事業者であるJR北海道でさえ、新幹線は来ないと思っていた」

 当時から経営が思わしくないJR北海道としては、来るはずのない新幹線のために一等地を空けておきたくない。そこで新幹線駅用地にビル群を建ててしまう。JRタワーの計画の段階から鉄建公団は反対していた。そのあたりは、札幌市長、道知事なども巻き込んだ論戦があったという。結果としてはご覧の通りである。

 実はこのとき、鉄建公団も新幹線札幌延伸については拙速ではなく、関連自治体に対して地道な協議、説得を続けている段階にすぎなかった。しかし、思わぬところから北海道新幹線の計画が進展する。九州だ。九州出身の代議士が働きかけて、九州新幹線鹿児島ルートの建設開業が決まった。次は長崎新幹線だ。しかし、九州ばかり新幹線を進めては、いかにも「我田引鉄」である。そこで彼は考えた。「長崎ルートと同時に、北海道新幹線札幌ルートも確定させれば良いのだ」と。

 こうして、急きょ、北海道新幹線札幌延伸が動き出す。経由地の駅選定ではそれなりにもめたという。小樽は市街地が発展していたため、離れた場所でも合意してくれた。しかし、最大の問題は札幌駅だった。そこにはもう、新幹線の駅の用地がない。かつて、東京駅に東北、上越新幹線のプラットホームを増設したときのように、在来線プラットホームを改造して新幹線用に改造する案と、地下駅を作る案が検討された。建設費の問題で在来線改造案になった。これが12年の合意だ。

photo 高架化したときは薄い青色部分が新幹線駅用地だった。ここにビルを建ててしまったため、北海道新幹線札幌駅は1、2番プラットホームを転用する計画で認可された。現在は地下駅案に傾きつつある(国土地理院地図を加工)
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