首脳会談決定で高まる、米朝開戦のリスク世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2018年03月15日 07時30分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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会談合意は「前進」よりも「リスク」

 余談だが、幹部候補の米軍関係者は、トランプに言われるまでもなく、かなり「アメリカ・ファースト」である。自国を軍事的にどう守り、自国の利益のために敵対国とどう軍事的に対峙するのか、そういったことを常に真剣に検討している。もっと言うと、彼らと一緒に会議などに出ると、国民の生命と財産を守るために、国のために命をささげているという使命感が感じられる。さらに、米国のためなら「他国は二の次」というのが当たり前との認識が発言などからにじみ出ている。

 ただ同盟国の存在は常に政策立案・作戦計画には重要なもので、大事に見ているというのもまた事実である。米国が北朝鮮を軍事攻撃できない最大の理由の1つは、日本と韓国という同盟国の存在だ。ただ今回の会談への合意で、米国が暴走して、勝手に米国に届くミサイルの開発停止といった自国のことだけを考えた合意などに走り、日韓を置き去りにするのではないかとの見方もある。ただそれができるなら、北朝鮮への攻撃はもう実施していても不思議ではないと個人的には思う。

 とにかく、ここまで見てきた点を考慮すると、今回の金正恩委員長による会談のお誘いは、あっさりと応じるべきではなかったのではないだろうか。もちろん、戦争で人が死ぬよりも、対話は素晴らしいことなのは間違いないのだが。

 それでも米国側がかなり譲歩した形と言える。金日成、金正日の時代から、世界唯一の大国である米国の大統領と膝を突き合わせて同等な立場で会談するというのは、北朝鮮の悲願である。それをかなえてあげることになるからだ。

 トランプの会談合意は、核・ミサイル問題における「前進」というよりも「リスク」のように思えてならない。今回のトランプによる決定は非常に重いものであり、絶対に失敗できないものだ。さもないと、米朝開戦に少しずつ近づくことになり、韓国や日本で多数が死ぬことにもなりかねない。

 もっとも、会談が成功する見込みはかなり薄いのではないだろうか。

 米朝首脳会談は5月に行われる予定だが、会談まで、日本にとっても注目すべき2カ月になることは間違いないだろう。現時点で、北朝鮮からはトランプが会談に応じたことに対して何ら公式な反応はない。ボールは今、北朝鮮側にある。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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