女子レスリングのパワハラ問題、一体誰が得をしたのか赤坂8丁目発 スポーツ246(2/5 ページ)

» 2018年04月08日 08時00分 公開
[臼北信行ITmedia]

栄氏はあまりにも突出し過ぎた

 栄氏は大きな過ちを犯したが、日本女子レスリング界の屋代骨を支えてきた人物だ。いまさら振り返るまでもないが、男子レスリング・フリースタイルの選手として活躍後は京樽、中京女子大学付属高校(現至学館高校)と女子レスリング部の指導者を歴任。現在は至学館大女子レスリング部の監督、全日本女子チームでヘッドコーチを務めるなど選手育成の手腕は日本国内だけでなく世界でも「栄の存在があるから日本の女子レスリングは強い」(米スポーツ専門局「ESPN」)と言われ、定評が高い。

 伊調選手だけでなく実姉の千春選手、そして吉田沙保里選手、川井梨紗子選手、土性沙羅選手、登坂絵莉選手、小原日登美選手ら五輪メダリストたちも至学館大女子レスリング部OGで栄氏の門下生である。加えて言えば栄氏は東京周栄クラブでもコーチを務め、ここでは後にアテネ、北京と2大会連続で銅メダルに輝く浜口京子選手の指導歴も持つ。

 24時間365日に渡り選手のことだけを考えて「選手と恋愛する」。自腹で4000万円とも言われるマンションを購入し、女子部員たちを住ませてプライベートまで徹底管理することを指導哲学としている。「2度の結婚歴で、いずれもお相手は教え子」と突っ込む人は多々いるが、そこは当人同士のことなのだから余計なお世話だろう。いずれにしても、こうした指導哲学に基づく“栄イズム”が結果に現れて一時代を築き上げたことは誰もが認めなければならない。

 しかしながら、栄氏はあまりにも突出し過ぎた。そして女子レスリング界で“天皇”とまで呼ばれるようになった同氏の存在を「煙たい」「面白くない」などと疎む勢力があるのも事実。これだけのメダリストや有力選手たちを世に輩出したことで栄氏の力は次第に増していき、いつしか誰もモノを言えなくなったからだ。協会からも強化本部長という肩書きを与えられ、日本女子レスリング界における強大な発言権は“ツルのひと声”に匹敵するとまで言われるようになっていた。

 今回発覚した伊調選手へのパワハラ行為そのものは栄氏本人が権力を手にしたことで勘違いし、それが元で結果として道を踏み外す形になってしまったと言える。だが、そもそも今回発覚した数々のパワハラ行為の発端になったのは伊調選手が栄氏のもとを離れ、練習拠点を東京に移したことが「すべての不幸の始まり」となってしまった点を忘れてはいけない。

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