女子レスリングのパワハラ問題、一体誰が得をしたのか赤坂8丁目発 スポーツ246(3/5 ページ)

» 2018年04月08日 08時00分 公開
[臼北信行ITmedia]

「選手と恋愛する」という指導哲学が足かせに

 2008年の北京五輪で金メダルを手にした伊調選手は、姉の千春選手とともにカナダ・カルガリーへ留学。ここで「楽しみながらレスリングをしたい」との思いが芽生え、一度は現役を退く決意を固めていたが、再び勝負の世界へ戻ることを決めた。

 帰国後は東京で自衛隊体育学校、早稲田大学など出稽古を重ねながら男子レスリングの代表合宿にも参加。ここで男子ナショナルチームのコーチを務める田名部力氏と出会い、それまでの「本能のみで勝つレスリング」から「理論的な戦いで勝利を追及するレスリング」へと考え方が変わり、栄氏と決別した。

 当時の伊調選手の選択は決して間違ってはいない。後の世界選手権でも頂点に立ち続け、ロンドン、リオでも金メダルをつかみ女子個人として前人未到の五輪4連覇を成し遂げた栄光の歴史がそれを証明している。

 一方で「元恩師」の目には残念なことに、そう映らなかったようだ。ここまで手塩にかけて育て上げた愛弟子の伊調が自分を捨て去り、新しいコーチのところへ走っていった――。そのように栄氏がとらえて憤慨した様子は容易に想像がつく。彼女が練習拠点を変えた当時、栄氏とどういうやり取りがあったのかは分からない。「伊調選手が筋を通さなかった」と指摘する関係者もいるが、真相は2人にしか分からないだろう。

 どちらにせよ栄氏は深い愛情を注いでいた自分の教え子が他人の手ほどきを受けながら、さらに成長していくことが許せなかったということだ。皮肉にも「選手と恋愛する」という自らの指導哲学が結局のところ足かせとなってしまい、栄氏を人の道から外し、器を小さくしてしまっていた。とても悲しく思う。

 栄氏のパワハラ認定で大慌てなのは、同氏をバックアップしてきた面々だ。特に至学館大学の谷岡郁子学長は右往左往しているはず。パワハラ問題の論点の1つとなっていた「OGの伊調選手に練習場所を使わせなかった」とされる点について谷岡学長は会見を開き「私が『使わせる』と言えば、伊調馨さんはいつでも使うことができます。栄和人はその程度のパワーしかない人間」「そもそも伊調馨さんは選手なんですか?」などと“上から目線”でぶちまけ、真っ向からパワハラを否定した。

 あまりの高飛車な態度に集まった報道陣から大ひんしゅくを買い、ネットユーザーからも批判の嵐にさらされたのは記憶に新しい。至学館大学の“一校独裁体制”に長らく不満を抱く女子レスリング関係者は次のように指摘する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.